FF12 | ナノ


final fantasy xii

青々とした木々の葉が風に弄ばれて揺れている。それらが奏でる細やかな音の合間を縫うかのように鳥たちの囀りが響いた。ヤクト・ディフォールにある、ゴルモア大森林の深部。民が「エルトの里」と呼ぶここは森を離れた異端のヴィエラ、フランの故郷でもある。訳あって彼女たちはこの地へと足を踏み入れた。とは言え、森を、仲間を――家族でさえを捨てて人間(ヒュム)の世界を選んだフランだけは里の入口付近で仲間たちを待っている。ヴァンが一番に奥へ奥へと走って行き、それを少し困ったような表情で彼のガールフレンドであるパンネロが追いかけた。そんなふたりに溜め息を吐きながらアーシェ・バナルガン・ダルマスカが続き、彼女のすぐ後ろをバッシュ・フォン・ローゼンバーグが行った。アーシェは亡国の王女であり、バッシュは彼女を守る剣であり盾であった。しんがりはフランの相棒――空賊バルフレアである。バルフレアは自由を愛する男だ。そんな彼とその相棒フランもヴァンと出会った頃は面倒事に巻き込まれただけで、仮初めの付き合いだと思っていた。しかしそれはがらがらと崩れ落ちた。六人――ヴァン、パンネロ、アーシェ、バッシュ、バルフレア、フランは今、この世界イヴァリースの未来の為戦う道を歩んでいる。アルケイディア帝国とダルマスカ王国の衝突。陰謀と欲望で揺れ動く世界。人に不安を与える蠢くモンスターたち。それらはドロドロと混ざり合い、美しくはない色にイヴァリースが染まりつつある。ヴィエラ族であるフランは人間(ヒュム)特有の欲望を冷ややかな目で見てきた。バルフレアもまた面倒なことを嫌うタチだ。そんなふたりと、どこにでもいる孤児のヴァンやパンネロ、復讐の炎を胸に宿すアーシェ、濡れ衣を着せられた元将軍バッシュ。本来ならば絡まることなどなかっただろう。バルフレアはただ何となく風に揺られる飛空艇に乗って、イヴァリース中を飛び回っていたはずだ。価値あるモノを探しまわり、金を得たら旨い酒を飲んで。綺麗な女と遊んだりして。だが、今バルフレアやその相棒フランを取り巻く世界はそうではない。穏やかとは言えない日々を送っている。戦いの旅だ。それは「自由」を求める者たちの。フランも弓や魔法で多くの命を奪いながら進んできた。それは敵対する帝国兵であったり、モブと呼ばれるものであったり、人の生活を脅かすようなモンスターであったりと様々だ。今日、ここエルトの里へ入る前にも大森林に生息するモンスターを倒してきた。命を奪う行為を重ねることで、彼女たちは何かを得て、時に何かを失って――ここまで進んできたのだ。ふたつの帝国の間に揺れるイヴァリースに「平和」な時代が訪れるまで。

フランはきらきらと輝くクリスタルの脇でバルフレアたちを待っていた。エルトの里の入り口。奥には実の姉ヨーテがいる。実の妹ミュリンがいる。ヨーテは厳格な里の長で、自他に厳しい。ミュリンは多感な年頃で、フランの影響を受けたのか外の世界に興味を持っている。しかしフランは妹を止めた。自分のようにはなって欲しくない、と。森を出たヴィエラは裏切り者で、森の声も聞こえなくなる。外の世界に生きる自由を得るためにフランはあらゆるものを捨てたのだ。想像を絶する哀しみや、大きすぎる苦しみも抱えて。そんな思いを妹ミュリンにはさせたくなかった。もうミュリンにとっての姉はヨーテ、彼女だけであるのだと言って別れたあの日のことをフランは昨日のことのように覚えていた。悲しそうな顔をしたミュリンのことも、複雑な表情でこちらを見ていたヨーテのことも。それを隅で聞いていた他のヴィエラの横顔も。ここにいるとそんな事ばかり思い出してしまう――フランは自嘲した。自分の選択は間違いではなかったと思っている。バルフレアとの出会いも、今、こうしてヴァンやアーシェと行動を共にしていることも。ただ――道はたくさんあったのではないか、とも思う。人生は一回しかない。選べる道はただひとつ。一歩踏み出してしまえば、もう、引き返すことなど出来ない。待ち受ける運命を受け入れるしかない。自分は結局、自由を求めて森を捨てた。その道をフランはバルフレアの手を取って歩いている途中である。でも、分かれ道も確かにあったのだ。血を分けた家族のヨーテやミュリン、森の防人や薬師と共に生きる未来への道も。その道もまた光に溢れるものかもしれない。今はもう手の届かない幸せを掴んだり、全く違う喜びを感じ取ることも出来たかもしれない。しかし彼女はその道を選ばなかった。そう――フランが選んだのは空賊としての人生。アルケイディス育ちの若い男との出会いがフランの全てを変えたといっても過言ではない。バルフレアはフランに多くのものを与えてくれた。それは目に見えないものも多く、フランもまたバルフレアに多くのものを与えてきた。今はこうやって砂漠の小国ダルマスカを愛する者と行動しているが、この長く過酷な旅が終われば、またふたりでイヴァリースの空を翔ける日々が戻ってくるに違いない。そこまで考えてフランはくすりと笑った。漏れた息と声が柔らかな光の中で溶け消えた。この笑みは、自分にとってバルフレアがこれほど大きな存在担っていた、ということに驚いたことによって零れたもの。自分たちは生まれた国が違うどころか、種族が違う。その為、いつか時間という残酷なものによって引き裂かれる日が必ず来る。だが、今はそんな事を気にかけたりするほど暇ではない。共に在れる日々ならば、今を愛して繋がり合っていたい。引き裂かれる日のことは、その時考えればいいのだ――そんな事を考えて無限ではない時間を浪費するのは愚かなことだから。

また、鳥が鳴いた。季節は春。薄紅色や黄色といった花が咲き、芳しく香る。里の春は優しい。そろそろ、ヴァンやバルフレアが用を済ませて戻ってくるだろう。フランは長い銀髪を手で梳いて、暖かな風にそれを託した。人間(ヒュム)と交わったヴィエラに森の声は聞こえない。だが、微かに微笑っていてくれている。そんな風に感じた。



title:夜途

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