FF12 | ナノ


final fantasy xii

「――ラーサー様。疲れていませんか?」

アルケイディア帝国の皇子であるラーサー・ファルナス・ソリドールを仲間に加えたヴァン一行は、オズモーネを進んでいた。彼らの目指す神都ブルオミシェイスは鬱蒼としたゴルモア大森林を抜け、極寒のパラミナ大峡谷を越えた先にある。

「僕は大丈夫です。ありがとうございます、パンネロさん」

ラーサーは微笑しつつ答える。彼はパンネロのすぐ隣を歩いていた。ちなみに先頭を進んでいるのはヴァン。その後ろにバッシュとアーシェ。ラーサーとパンネロの後ろを行くのは空賊たち――フランとバルフレアだ。ゴルモアの森はまだ遠い。だが、既に日が傾きつつある。また今夜も野宿をすることになるだろう。それでもラーサーは嫌な顔をせず、それどころか少し楽しそうな表情をパンネロには見せる。逆に、そういったことが新鮮に見えるのだろうか。それとも、男の子とはこういうものなのか。そういえばヴァンはそういうタイプだな、と思いながらハニーブラウンの瞳をした少女は歩き続けた。

しばらく歩いているうちに、空は次第に黒く染まっていった。バッシュが先を行くヴァンを止め、ここで身体を休めようと口にした。ここ、と指したのは比較的モンスターの少ない場所である。仲間たちは頷いた。もう少し時が流れれば、星が瞬き始めるだろうから――。


ガリフの地ジャハラで購入したナンナのチーズをパンで挟んだものと、焼いたナンナの肉が少し。それが今日の夕食である。皆、文句は言わない。十分美味しいから、という理由もあるかもしれないが、こんな時代、贅沢は言ってられない、食べられるだけ良いと思っている為でもあるのだろう。この世界――イヴァリースは、争いで溢れている。ヴァンたちがいま目指している神都ブルオミシェイスには難民がたくさんいるというし、パンネロもラバナスタ・ダウンタウンで飢える人々をたくさん見てきた。ヴァンやパンネロと一緒に暮らしていた家族同然の仲間たちも、また皆孤児だった。彼らは元気だろうか――気になったが、今は進まねばならなかった。これ以上、醜い戦いによって悲しむ人を増やす訳にはいかないから。アルケイディア帝国皇子ラーサーとの出会いは運命的だった。パンネロは誓いをたてる。灯りのない大地を見下ろす、満天の星空が彼女の背を押しているようだった。

バッシュはラーサーに自分が見張りをするから眠るよう言ったが、小さな皇子は首を横に振る。皆の為に、自分に出来ることなら何でもしたいと口にして。パンネロはバッシュに言う。私が彼と見張りをするから、おじさまは身体を休めてください、と。バッシュは仕方無さそうに笑んで、「なら頼む」と言って去った。パンネロとラーサーの間には燃え盛る炎。これは、パンネロがファイアの魔法を唱えたものである。

「――パンネロさんは魔法が得意なんですね」

ラーサーが言う。パンネロは笑って首を横に何回も振った。

「そうでもないですよ。フランにいろいろ教えてもらったから、少しなら使える――その程度です」

森の民とも呼ばれるヴィエラ族であるフランは、弓や機械だけでなくミストや魔法にとても詳しく、パンネロは時々彼女にそれらについて教えてもらっていた。

「私は剣があんまり上手に扱えなくて。体力にもあまり自信がないですし……。でも、魔法だったら少し出来るかな、なんて思ったからフランに頼んだんです」
「そうですか…パンネロさんは努力家ですね」
「…いえ、そんな」

パンネロが言うと、ラーサーはとても真剣な目をして彼女を見る。

「僕はパンネロさんがいつも頑張っていることを、知っています――僕も、皆さんの力になりたい。そう思っています」
「――なれてますよ。ラーサー様はいつも私を、ううん、私たちを助けてくれて――本当に感謝しています」
「パンネロさん……」

ラーサーの頬が紅潮する。それを見たパンネロの頬もまた紅色に染まった。少女は空を見上げた。どこまでも広がっている空。アルケイディア帝国の帝都アルケイディスにも、旧ダルマスカ王国王都ラバナスタにも、これから向かうブルオミシェイスや、パンネロは行ったことのないもうひとつの「帝国」、ロザリア帝国にも。ラバナスタの人たちも夜空を見上げているだろうか。空を通じて、思いも通じ合えたらいいのに。そんな風に願ってしまう。それからパンネロとラーサーは、これからのことを少し話してから過去についても語った。主にパンネロが話し、ラーサーが時々疑問符を浮かべながらそれを聞く、といった風に。今は亡き両親と兄との思い出を。ヴァンや彼の兄レックスとの記憶たちを。カイツやフィロとの物語を。ラーサーは興味深そうにそれを聞いていた。
パンネロの話が終わると、ふたたび未来のことを話した。平和なイヴァリースで生きていきたい。大切な人たちを失ったりしない世界で、出来れば、あなたに側にいて欲しい――そんな望みがラーサーの口から零れ落ちる。パンネロは更に顔を赤らめた。彼が歪みを糺し、帝国を守った「その先」の話に芽吹く、その想い。実を結ぶのは、ずっと先だ。まだ後ろ姿すら見えていない。見えていないけれど、パンネロは彼の台詞に頷いた。――きっとそれは叶う。諦めない限り。努力しなければ叶わぬ願い。努力すれば叶う願い。ラーサーとパンネロは星空の下、約束を交わす。それは月のない夜の、静かな誓いだった。


title:泡沫


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