FF12 | ナノ


final fantasy xii

「――あら、ユトランドに?」

アーシェが少女に問いかける。ダルマスカ王宮。とある一室での会話だった。ラバナスタは今日も晴天で、蒸し暑い。金髪の少女は腕などを露出した涼しそうな服を身に纏っている。反対にアーシェはゆったりとした白いローブを着ており、見ていて少し暑そうだ。部屋の中央にはテーブルがあり、真紅の花が生けられている。ガルバナだろうか。金髪の少女は懐かしい顔を思い出しながらも、アーシェのことを見る。ふたりは柔らかな白いソファに腰を下ろして向かい合っていた。アーシェ・バナルガン・ダルマスカ。ダルマスカ王国の現女王。そんな彼女と穏やかに会話している少女の名はパンネロ。数年前の「バハムート戦役」でアーシェとともに戦い、自由を掴んだ若き踊り子だ。パンネロは数年空賊として活動した後、王宮付きの踊り子としての道を選んだ。本来ならば身分の違いにより話すことすらかなわないようなふたり。会うことが許されているのも、パンネロがアーシェらと共にダルマスカの自由と誇りを取り戻すあの戦いで大活躍したからだ。

「そうなんです。ヴァンったら、勝手に飛んで行っちゃって」
「ふふ、彼らしいわ」

アーシェが口にした「ユトランド」とは、オーダリア大陸西端・ロアル大陸東端の地域一帯のことで、パンネロが言うには、ヴァン――パンネロのボーイフレンドはあちこちを飛び回っており、今はユトランドにいる、ということらしい。アーシェはユトランドに行ったことはないのだが、パンネロは空賊として活動していた頃、何年かその地にいたという。ユトランド。数百年前から「ロウ」というものが存在する地域。そしてダルマスカやアルケイディアとは飛行艇を通じて盛んに交流・交易が行われている地域――。そこにヴァンはまた行ったのだ。そしてユトランドをふらふらとまわりながら、時々かつてパンネロとともに所属していたクラン、「ガリークラン」に混じったりしながら、自由な旅をしているらしい。王都ラバナスタに本部を置くクラン「セントリオ」のリーダーであるモンブランや、彼の弟で以前ラバナスタのモグシー屋をしていたハーディもその「ガリークラン」に混じっていろいろなことをしている。パンネロはふたりのモーグリを思い出して微笑した。きっと元気にしているはずだ、ヴァンとパンネロがユトランドから発ったあの日、モンブランは砂糖菓子をわけてくれた。ハーディは歌を聞かせてくれた。あれから数年。ヴァンはふたたびユトランドの土を踏み、パンネロは新たな道を進んでいく。
アーシェ、バルフレア、フラン、バッシュ、ヴァン――そしてパンネロ。六人で旅をしていたあの頃が、ユトランドでの数年間とともによみがえってきた。空中要塞バハムートはダルマスカ砂漠に落下し、戦いは終わり、アーシェは女王として、バルフレアとフランは空賊として、バッシュはジャッジマスターとして、新たな日々がやってきた。ヴァンは空賊になるという夢を叶え、パンネロは彼と共に数年間を過ごした。その後、踊り子としてデビューを果たし――そして、今がある。

「今はガリークランに再加入してクエストをこなしてるみたいです――クランの人はみんないい人だし、あんまり心配はしてませんけどね」

パンネロは窓の向こうを見つめながら呟くように言った。この空の下、遥か彼方でヴァンは笑っているだろうか。そんな風に思いながら。

「パンネロは行かなくていいの?」
「え?」

アーシェの問いに、少女は首を傾げた。それからいつもの表情に戻って首を横に振る。私の居場所はここなんです、と言い、そしてまた微笑む。アーシェ・バナルガン・ダルマスカも笑った。そうね、と短い言葉を発しながら。カチコチと壁時計が時を刻む。アーシェにはこれからやるべきことがあった。パンネロにも、だ。ふたりはほぼ同時に時計を見、それから立ち上がった。このままずっと話をしていたいけれど、そういうわけにはいかない。自由への闘いで勝利した彼女たちが掴んだ「自由」――それには責任がついて回る。アーシェにパンネロは手を振って、部屋を出て行った。取り残されたアーシェは窓辺に寄り、外を見る。ここは五階だから、外の世界がよく見える。数分後、ドアがノックされた。兵がアーシェを呼びに来たのだ。これからやるべきこと。それはアルケイディア帝国の皇帝に送る手紙を書くこと、だ。明後日までに書くよう言われている。アーシェは「はい」と言い、それを聞いた兵がドアを開ける。兵は三人いた。アーシェは彼らについていく。絨毯の上を、ゆっくりと歩きながら。

「――」

ちらりと窓の向こうに視線をやる。まぶしい青が飛び込んでくる。ヴァンは、こんなに青い空を飛び回り――居場所を見つけたのだろう。ユトランド。そこはもうひとつの自由を掴み抱く、新しい世界。


title:水葬

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