FF12 | ナノ


final fantasy xii

ダルマスカ王国――王都ラバナスタ。解放軍とアルケイディア帝国軍との戦い、「バハムート戦役」が終わって三年の月日が流れた。ラバナスタは戦禍の痕跡を完全に拭い去った姿はしていなかったが、自由を得た国民は幸せな日々を送っていた。自殺したと思われていたアーシェ・バナルガン・ダルマスカの存在もまた大きいのだろう。その王都ラバナスタは四方を高く堅い城壁に囲まれ、東西ダルマスカ砂漠とギーザ平原に囲まれている。ラバナスタに住むヒュムの一人であり、アーシェの戦いに力を貸し彼女と深い絆で結ばれている少女――パンネロは乾季のギーザ平原からラバナスタに戻ってきた。ギーザの遊牧民に頼まれてモンスター退治をしてきたのである。あの戦いに貢献したパンネロの実力は確かなものだった。時々こうやってギーザの遊牧民や砂漠で暮らす人々の依頼を受けているところからそれが窺える。パンネロは息を深く吸い込んでから、歩き始めた。なんとなく街中を歩きたい気分だった。

あちこちを歩き回って、そろそろダウンタウンに戻ろうか、と思った時だった。少し先によく知った顔を見つけたのだ。子供たちの笑い声の中、中央に立っている少年は間違いなく――

「ヴァン!」

パンネロはその少年の名を呼んだ。小さいころからずっと支えあって暮らしてきた男の子。アーシェ、バルフレア、フラン、バッシュと共に六人でイヴァリース中を旅した男の子。そしてパンネロが幼いころから想いを寄せてきた、真っ直ぐな男の子――ヴァンである。ヴァンは男女入り混じった子供たちの輪の中で何やら自慢げに話している。おそらくあの旅の思い出話や自慢話かなにかをしているのだろう。穏やかな空気に包まれたヴァンの姿を見るパンネロの頬が僅かに赤みを帯びている。パンネロはずっとヴァンのことが好きだった。だがその気持ちを伝えたことがない。今の関係が優しく、そして心安らぐものだから。これを壊したくなかったから。パンネロは一歩歩み寄った。ヴァンは名前を呼ばれて少女の存在に気付いたらしかった。ブルーグレイの瞳をパンネロの方に向けている。月日が流れ、二十歳となった少年――いや、青年のまなざしはかつてのものとそう変りない。

「どこ行ってたんだ?パンネロ」

ヴァンはするりと子供たちの輪から抜け出し、幼なじみの少女に声をかけた。子供たちはパンネロの登場に笑みを浮かべている。ここにいる者は皆孤児だった。年が上のヴァンやパンネロが面倒を見てきた。友達、というよりは家族とか仲間とか、そういう関係で呼んだ方がしっくりくる。ヴァンをヴァン兄ちゃん、パンネロをパンネロ姉ちゃんなどと呼ぶ子供たちをふたりは静かに見つめ、またあとでな、とヴァンが口にし、それから並んで歩き始める。

「ギーザ平原に行ってたの」
「ああ、あの人たちの依頼か」
「うん」

話しながら見慣れた世界を歩む。帝国兵の姿はあの頃と比較すると随分減った。それでも彼らの姿が見受けられるのは帝国と友好関係を築きたいと願う民の思いが具現化したからだろう。今ラバナスタにいる帝国兵は横暴な者ではないし、あの頃うろついていた恐ろしい帝国兵ではない。そのような者はとっくに母国へ帰っている。王国兵の姿も見受けられる。彼らもまた帝国兵と共にこの街の平和を守るために存在しているのだ。パンネロは目のあった帝国兵に会釈した。帝国兵もまたパンネロに会釈する。ヴァンはというとパンネロの隣で穏やかな表情をしている。そろそろ昼食の時間だ。太陽が真上で燦々と輝いている。パンネロが今日の昼食はどうしようか、と思った時だった。ヴァンが少女の心を読むかのように「昼食はどうする?」と問いかけてきたのだ。パンネロはヴァンに会わなければ、ミゲロの店まで行って自分とミゲロと従業員のために何かを作ろうかな、などと考えていた。今日は昼食の当番ではないけれど、代わってもいいかな、なんて思っていた。ちなみに今日はヴァンもパンネロもミゲロから休息を与えられている。

「砂海亭はきっと混んでいるよね」

パンネロがそう口にすると、少年は頷いた。ラバナスタで一番の酒場であり食事処である砂海亭。この時間だ、間違いなく混雑しているだろう。ヒュムやバンガ、そしてシークなどが食事を頬張っている光景は簡単に思い描くことができる。パンネロは考え込んだ。

「じゃあさ、パンネロ。ダウンタウンで何か買って、広場かどこかで食べようか」

ヴァンは言った。ダウンタウンには沢山の店がある。ダウンタウンはふたりにとって庭のようなものだ。そのため、彼らは美味しいものを売っている店をよく知っていた。ヴァンとパンネロはラバナスタ・ダウンタウンの入り口まで走っていき、慣れた様子で階段を下りていく。階段で見知った少女と顔を合わせる。何をしているのかとパンネロが気さくに問いかけると、少女ははにかんで答えた。昼食を買いにダウンタウンへ行ったところなのだと。パンネロとヴァンは笑う。自分たちもそれと同じだと口にすると、少女は目を丸くしてそれから花のように笑んだ。少女もまたパンネロと同じ戦災孤児だった。少女を見送ってふたりはリズミカルにおりていく。カツコツと冷たい足音が響いた。

ヴァンとパンネロはサンドイッチと飲み物、サラダを購入して階段をあがる。行きとは別の階段を、だ。そこでも知り合いに出会った。魔法屋で働いている若い男と。彼はヴァンとパンネロのことをひやかしてダウンタウンの雑踏の中に消えていった。少女の頬が熱くなる。パンネロは真横のヴァンを見てから、首を横に振る。彼の頬が赤くなっているように見えたのはきっと気のせいなのだと。自分がそうであってほしい、だなんて願ったせいなのだと、そう言い聞かせるように。ヴァンはそんなパンネロを見て首を傾げたりはしなかった。声を出すこともなかったけれど。
広場につくと、そこはたくさんの人たちの声であふれていた。活気あるラバナスタ。パンネロの家族が存命であった頃によく似た街――。太陽の光はじりじりと照りつけ、露出した肌を焼く。気温もだいぶ上がっていた。運のいいことに、空いているベンチがあった。ふたりは駆け出し、そこに腰を下ろす。聞きなれた音にヴァンとパンネロは大空を見た。飛空艇が別の国を目指して飛んでいる。あまり大きな飛空艇(フネ)ではない。客を乗せて翔けるものではなく、空賊などが運転しているものだろう。ヴァンはこういう飛空艇を見ると、ずっと思い描く夢が鮮明になって身体が疼く。いつか自分だけの飛空艇を手に入れてこのイヴァリースの空を飛んでいきたい――そんな思いが。パンネロはそんなヴァンととっくに見えなくなってしまった飛空艇を見て、嘗ての仲間を思い出していた。空賊バルフレアとその相棒フランを。ふたりは今日もまたシュトラールに乗って、どこかの空を飛んでいるのだろう。懐かしさが心の中に広がる。彼らだけではない、女王としてこの国を治めるアーシェ・バナルガン・ダルマスカのことも、今はアルケイディア帝国でジャッジマスターとしてラーサーの片腕となっているバッシュ・フォン・ローゼンバーグのことも、少女は思う。アーシェとは身分こそ違うけれど確かな友情関係を築いたものだし、バッシュのことは叔父さまと呼んで慕っていたのだから。ヴァンはとっくにサンドイッチやサラダを美味しそうに口へと運んでいて、いろいろ台無しだな、だなんて思いながらもパンネロは微笑む。そんなところも含めて、少女は少年を好いているのだから。


title:確かに恋だった

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