FF12 | ナノ


final fantasy xii

プルヴァマ。それは、オーダリア、バレンディア、ケルオンの三大陸に挟まれた海域に浮かぶ浮遊大陸群。最大の島、ドルストニスに自治都市ビュエルバはある。プルヴァマのほとんどが熱帯に属しており、気候は高温多湿。ビュエルバは魔石と観光の街として有名で、アルケイディア帝国やダルマスカ王国などからの旅行者が多い。中でも空に向かってせり出した空中庭園はとても人気である。ダルマスカ王都ラバナスタ市民であるパンネロは、空中庭園の入り口に立っていた。パンネロはここで彼と会う約束をしていた。ラーサー・ファルナス・ソリドール。ただならぬ立場である彼がここにやってこれるのは、ビュエルバを治めるハルム・オンドール四世から特別な許可をもらい、貸し切っているためだ。ラーサーは小型の飛空艇に乗って、ここビュエルバまでやってくるらしい。パンネロはごく普通のビュエルバ行きの飛空艇(フネ)に乗ってここへとやってきた。ターミナルは人でいっぱいだった。ヒュムだけでなく、バンガやシーク、モーグリ、珍しいところではヴィエラの姿もあった。あのヴィエラの女性も、フランのように里を出たんだなぁ、とパンネロは思い、人ごみに溶けていく彼女の後姿を見たのだった。パンネロはターミナルを出て、寄り道せずに空中庭園入り口まで歩いた。腕時計を見れば約束の時間の十五分前。少し早く着きすぎてしまったかもしれない。パンネロは鞄からハンカチを取り出して汗を拭う。会いたいという気持ちは、思っていた以上に大きいものだったらしい。少女は一人笑う。そんな少女の後ろには、看板が立っていた。「本日貸切」と書かれた大きな看板が。街を行く人々の中には首を傾げる者もいる。空中庭園に来たのに入れない、ということに苛立つ者もいる。パンネロは少し申し訳ない気持ちになった。自分たちのせいで空中庭園へ行けない人が何人いるのだろう――そんな風に思ってしまったのだ。だが今日だけだから許してほしい、そんな気持ちも芽吹く。たった今、看板を見て行き先を「カフ空中テラス」に変更したヒュムのカップルがパンネロの前を通りかかった。カフ空中テラスもまた、人気のスポットである。美しい青空に囲まれ、開放的な気分になれる場所。それがカフ空中テラスだ。パンネロも以前行ったことがある。とても綺麗な景色に感動したのを思い出したその時だった、人ごみの中に、見知った顔を見つけたのだ。その人物の背後には、重たそうな鎧で体を覆っているジャッジの姿がある。その人物も、白魔法の使い手が纏うような純白のローブを着、フードを被っていた。パンネロは思わず駆け寄った。彼もまた近づいてくるパンネロに気付いて、微笑む。

「パンネロさん」

久しぶりですね、という彼――ラーサー・ファルナス・ソリドールを見て、パンネロも笑った。手紙はしょっちゅう送りあっているが、こうやって会うのは本当に久しぶりのことだった。パンネロは辺りを気にして、彼のことを「ラモンさん」と呼んだ。ラモンとは彼が前から使っている偽名で、ヴァンたちと初めて会った時にもラモンと名乗ったのだという。ラーサーは苦笑する。仕方ないとはいえ、本当の自分で在れない自分が少し嫌だったのかもしれない。着なれない白いローブとフードに、偽名に。ジャッジはパンネロとラーサーを見てから、私はオンドール侯爵邸にいますので、と言って二人のもとを離れていった。声はとても若々しかった。あとでパンネロがラーサーに聞いた話によると、彼は今年ジャッジとなった新人であるという。そんな彼がラーサーの護衛につけるのは優秀な証なのだろう。
ラーサーとパンネロは並んで空中庭園へと入った。美しい花々が咲き誇っている。池もあり、そこではスイレンだろうか、桃色の花が浮かびながら咲いており、水の中には色鮮やかな魚が泳いでいる。池があるおかげなのだろう、あまり暑くはない。空へ向かってせり出すクリスタルは、日光に照らされてきらきらと輝いていた。パンネロは息をのむ。あまりの美しさに言葉がうまく出てこない。ラーサーもそのようだ。彼の黒髪と彼女の金髪は躍る。無言のステージで、いつまでも。

「パンネロさん、あの――」

突然、ラーサーが口を開いた。真紅の花とそれに誘われてきたであろう青い蝶を見ているときのことだった。パンネロは視線を花から少年へと動かして、一度首を傾げた。爽やかな風が吹いている。

「受け取ってほしいものがあるんです」
「え…?」

私に、ですか?とパンネロは問う。するとラーサーはそうです、と頷く。木々がざわめいた。そんなことは知らずに鳥は大きな声で歌い続ける。だがパンネロの耳にしっかりと飛び込んできたのは彼の言葉だけだった。

「――どうぞ」

ラーサーが小さな紙袋をパンネロの白い手のひらに乗せた。あまり重いものではないらしい。紙袋は薄いグリーン。薔薇のシールが貼ってある。パンネロの心臓がどくんどくんと早く鳴る。予想外だった。彼からなにかをプレゼントされる、だなんて。頬も紅潮し、そこが熱くなっていくのを感じる。

「開けてもいいですか?」
「はい」

ラーサーはにっこり笑う。パンネロは紙が切れないよう、細心の注意を払って薔薇のシールを剥がした。そして手のひらに贈り物を落とす。ネックレスだ。銀色の鎖の中央に、シールと似た赤い薔薇が咲いている。それは日の光に照らされて美しく輝く。

「――きれい……」

パンネロが言う。ラーサーはそれを聞いて安心したかのような表情をする。

「ありがとうございます…」

少女はラーサーからのプレゼントを見つめ、それから首にかけた。胸元に、花が咲く。そういえばこの庭園にも赤い薔薇が咲いていた。嬉しそうに笑う少女を見て、小さな彼もまた同じ気持ちになる。気に入ってもらえるかドキドキしていた。それにこれはアルケイディアでは流行っているものだが、ダルマスカ人である彼女は好かないかもしれない、などとも思っていたのだ、ラーサーはほっとした。

「よく似合っていますよ、パンネロ」

ラーサーは花開いたそれを見て、柔らかな笑みを浮かべた。パンネロにはまたひとつ、大切な宝物が出来た。大好きな人からの、贈り物。夢のような時間。彼への想い。心の中の宝箱にそれをしまう。なくさないように、落とさないように。パンネロは勇気を出して、ラーサーの手をそっと握る。彼は頬を赤らめてからそれを握り返すのだった。


title:確かに恋だった

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