FF12 | ナノ


final fantasy xii

ダルマスカ王国王都ラバナスタは今日も晴天だった。ダルマスカ地方の中央部に位置するこの街は、各時代と土地の文化が入り混じり美しくも雑多な独特の雰囲気を持つ。そんな街の酒場「砂海亭」にヴィエラの姿があった。ヴィエラは深い森に隠れ住むことから「森の民」と呼ばれる。様々な種族が入り混じって生活しているラバナスタでも、ヴィエラ族の姿を見かけるのは珍しい。すらりと長い手足と、兎に似た耳、美しい銀髪がヴィエラの特徴だ。寿命もヒュムの三倍あり、博識なものが多い。この酒場で酒を飲んでいるヴィエラ――フランも、あの長い旅の途中で何度も助言をしていたのだから。古来から、ヴィエラは他種族と交わることを避けてきた。深い森の中で生き、森と共にあるのがヴィエラなのだと。フランのように森を出たヴィエラ族は「ヒュムかぶれ」などと呼ばれ、他のヴィエラから軽蔑されることが多い。だかフランは過去と向き合ったうえで、森の外に居場所を見つけた。姉のヨーテ、妹のミュリン。大切な家族よりも、彼の手を握ることを選んだ。後悔はしていない。けれど緑を見れば、どうしても思い出してしまう。ひとりのヴィエラとして生きていた日々を。姉妹で外の世界に憧れを抱いた日を。フランはグラスに口をつけ、中のものを飲んだ。相棒のバルフレアの姿は隣になかった。彼は飛空艇ターミナルでモーグリ族のノノとともにメンテナンスをしているはずだ。好きなことをしていて構わない、と言われたフランはぶらぶらと街の中を歩いた後、砂海亭へとやってきた。好きな酒を注文して辺りを見回しながら、隣のテーブルで交わされる会話を聞きながら時間をつぶす。ハンターだろうか、掲示板をじいっと見つめている人間(ヒュム)とバンガの姿も見られる。フランは二年前を思い出した。ヴァン、バルフレア、アーシェ、バッシュ、そしてパンネロ。六人でイヴァリース中を飛び回ったあの日々を。バハムート戦役が終わってもう二年。ヴァンは空賊として、アーシェは女王として、バッシュはジャッジマスターとして、パンネロは空賊、そして踊り子として新しい自分となった。空賊としてあちこち飛び回る日がバルフレアとフランには戻ってきた。自由な日々。一番欲しかったものを、フランは手に入れた。

フランが酒を飲み干し、さてこれからどうしよう、と思った時のことだった。機工士のモーグリ、ノノが階段を駆け上がってきた。ノノはクラン「セントリオ」のリーダーであるモンブラン、モグシー屋のソルベ、ホルン、ハーディ、そしてチョコボ屋を営むガーディの兄弟である。緑のつなぎを着こんだ彼は、フランに駆け寄ってきた。

「どうしたの?」

フランは訊ねる。ノノは息を切らしていた。しばらく荒い息を吐いたあと、ぶるぶると体を震わせてから言葉を発した。

「メンテナンス、まだまだ時間がかかりそうなんだクポ!」
「どこか異常があったの?」
「そうなんだクポ。モグとモグの仲間の機工士で頑張って直すから、もうちょっと待っていてほしいクポ」
「わかったわ」

ノノは要件だけ話すと、また階段を駆け下りていった。フランはさてこれからどうしようか、と考える。とりあえず砂海亭を出よう、そう思って彼女はノノが駆け下りていった階段を静かにおりていく。トマジに酒代を支払って、店を出る。ラバナスタは広い。上層にもたくさんの店があるが、ダウンタウンまであるのだ。どこに行くべきか、フランは少し悩んだが、頭の中に一人の少女の姿が無意識に描かれた。パンネロ――共に戦った、朗らかな少女のことを。蜂蜜色の瞳と、金の髪が特徴的なかわいらしい少女のことを。彼女はミゲロの店にいるだろうか。もしかしたらラバナスタにはいないのかもしれない。だがフランの足は既に道具屋の方向に向けられていた。

ミゲロの店に入ったフランを迎えてくれたのは、ヴァンとパンネロを慕う少年カイツだった。カイツはヴィエラの登場に驚いたようだったが、フランであることに気付くとすぐにパンネロを呼んでくれた。パンネロの幼なじみであるヴァンはどうやらいないらしい。話によるとモンブランからモブ討伐の依頼を受けて、オズモーネまで行っているという。彼も小さいながら自分の飛空艇を持っている。きっとそれを自ら操縦して行っているのだろう。パンネロはフランを見つけると、目を丸くした。ハニーブラウンの大きな瞳には光が灯っている。

「フラン…!?」
「久しぶりね、パンネロ。元気そうでなによりだわ」
「本当に久しぶり……何かあったんですか?」

パンネロはフランに駆け寄る。奥ではカイツがミゲロに何か話している。フランがやってきたことをミゲロに伝えているのだろう、ヴィエラの耳はそんな会話をとらえていた。

「何もないわ、ただパンネロの顔が見たかっただけよ」

フランが素直に答えると、パンネロの頬が薄紅色に染まる。会えてよかった、とパンネロは言う。ヴァンもいればよかったのに、なんて付け加えながら。

「カイツから聞いたわ。彼、オズモーネまで行ってるって」
「そうなんです。私もついていこうかな、って言ったんだけど……」
「やっぱり男の子ね」
「ふふ、たぶん、ジャハラにも寄ってくるんじゃないかなって。ヴァン、ナンナのチーズがお気に入りみたいだから」

ガリフの地ジャハラ。あの旅でも立ち寄った場所だ。ガリフ族はケルオン大陸北西部で暮らしている種で、巨躯で仮面をかぶっているのが特徴である。ヴィエラ族のように性別ごとの集落があり、ジャハラは男性の暮らす里だった。オズモーネ平原ではガリフが戦っている姿を見ることも出来る。

「時間があれば一緒に店を見て回ろうって思ったんだけど?」

フランが長い髪に手をやりながら言えば、少女は嬉しそうに笑った。答えは聞かなくてもその表情でわかる。ちょっと待っててください、と言ってパンネロはミゲロのそばまで駆けていく。少し時間を下さい、などと言っているのが聞こえた。ミゲロも快くそれを受け入れる。パンネロはさっと奥へと入り、鞄を手にしフランのすぐ隣へと戻ってきた。その鞄には財布などが入っているのだろう。フランとパンネロはミゲロの道具ショップを出た。街は活気であふれている。日はちょうど真上あたりまで移動しており、イヴァリースを照らし出している。パンネロはダウンタウンに美味しいパン屋があるのだと言った。ならばそこでパンを購入して広場かどこかで食べましょう、とフランが答えると少女は頷く。ダウンタウンへの階段まで行き、おりていく。薄暗いが、そこにも人はたくさんいる。平和になった、ダルマスカ。ヴァンやパンネロにとっての故郷。アーシェの守るべきもの。バッシュやバルフレア、そしてフランにとっても大切な場所――いつまでも、この平和が続きますようにと願わずにはいられない。フランは先を行くパンネロの逞しい背中を見つめながら、そんなことを思った。


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