FF12 | ナノ


final fantasy xii

あれから二年が経過した。オーダリア、バレンディア、ケルオンの三大陸に挟まれた海域に浮かぶ空中大陸群プルヴァマ。最大の島ドルストニスには高温多湿の自治都市国家ビュエルバがある。ビュエルバは魔石と観光、そして飛空艇製造の街だ。フランと相棒のバルフレアはそんな空中都市ビュエルバを訪れていた。ふたりの飛空艇シュトラールのメンテナンスなどをするモーグリ、機工士ノノがビュエルバに来たいと強く望んだからだ。そのノノは同じくモーグリ族の機工士たちと熱く語り合っている。バルフレアは浮き雲亭で酒でも飲んでいるだろう。ここの酒は美味いと評判だから。フランはひとり歩き回り、カフ空中テラスまで来た。この空中都市ビュエルバで、森の民ヴィエラはとても珍しい存在である。ヴィエラ族の登場にビュエルバの民は目を丸くするが、次第にそんな空気はなくなり穏やかな風が吹き抜けていく。自由に浮かぶこの街の民は、寛容だ。人間(ヒュム)の生活に混じり、空賊として活動しているフランを受け入れてくれる。五十年以上前に、姉であるヨーテと妹であるミュリンを、故郷である森を捨てたフランのことを。フランの居場所はもう、バルフレアの隣しかなかった。

カフ空中テラスからの景色は素晴らしいものだ。青が全てを包み込み、綿のような雲がふよふよと浮かんでいる。カフ空中テラスには人がたくさんいた。ほとんどが若き皇帝ラーサーが治めるアルケイディア帝国や、バハムート戦役後アーシェによって復活が宣言されたダルマスカ王国などからの観光客と思われる。ラーサーはフランたちの旅に二度ほど同行してくれた少年で、パンネロと仲がよい。アーシェはアマリアの名で解放軍として活動した後、ラバナスタの孤児ヴァンとパンネロ、ダルマスカの将軍であったバッシュ、そしてバルフレアとフランと一緒にイヴァリース中を旅した仲間だ。種族や年齢をこえたフランの友人でもある。戴冠式後、正式に女王となってから会ったことは数えるほどしかないけれど、パンネロは王宮で舞を披露したりしているらしく、彼女を通じてアーシェの近況は聞いていた。旅行者のほとんどは人間(ヒュム)だ。次に多いのがバンガである。そんな旅行者の中にたったひとりのヴィエラを見つけ、フランはそれとなく近寄る。フランと同じ褐色の肌をした彼女に見覚えはなかった。肩のあたりでばっさりと切られた銀髪が涼しげだ。近寄ってくるフランに彼女が気付く。フランと似た赤茶の瞳をこちらに向けている。声をかけようか、フランがそう思った時だった。彼女の薄い紅色の唇が動いたのは。はじめまして、という挨拶。それは人々のざわめきに溶けてしまうが、長い耳を持ち人間よりも聴覚に優れたヴィエラには拾い上げることが出来た。

「――あなたも森を出たのね」

名も知らぬヴィエラが微笑みかけてくる。どこの出か、と問うてくるのでフランは隠さずに答えた。すると彼女は「あのあたりで一番厳しいというあの里ね」と言い、自分もヤクト・ディフォールのゴルモアの奥深くの里から外の世界に出たのだとフランに教えた。ケルオン大陸の内陸部にあるヤクト・ディフォールはほとんどが森に包まれた神秘の地だ。彼女はその里の長はとても美しく厳格だと聞いたわ、と言う。その里長ヨーテが目の前にいるフランの実姉とは夢にも思わないだろう。フランは苦笑いした。

「私は里を出たばかりなの。親切な人間(ヒュム)につれられてビュエルバまで来たのよ」

フランは無邪気に笑う彼女を見つめた。年はおそらく、ミュリンと同程度だろう。ビュエルバが気に入ったのでしばらくここに滞在するつもりなのだ、と言う彼女を見てそう思った。カフ空中テラスに人がやってきては去っていく。フランは少しの間、彼女の話を聞いていた。同じヴィエラだからこそ、聞いてやるべきだと思ったのだ。森の民であるヴィエラ族が空に憧れてしまうのは、自分も同じだと気付いたから。外の世界に出て、人間(ヒュム)と付き合っているのは自分もそうだとわかっているから――。

「ごめんなさい、私ばっかり話しちゃって。あなたにも用事があるでしょうから、またね」

彼女は慌てた様子でフランの側を離れていく。銀の髪がビュエルバの風と戯れ、高いヒールを履いた足で地を蹴る。じきに彼女も森の声を聞き取れなくなるだろう。それは森を出たヴィエラが必ず背負うさだめ。フランにはもうその声が聞こえない。森ではなく、空と生きることを決めたフランには――。
そろそろバルフレアのいる浮き雲亭に行こう、フランはそう思い若いヴィエラが歩き去った道を進み始めた。カフ空中テラスには空中都市の銘酒ビュエルバ魂を飲んでいい気分になっている人間(ヒュム)やバンガの姿があった。相棒がそんな風になる前に迎えにいってやらないと。フランは僅かに笑った。青い空も、じきに茜色に染まるだろう。フランの心を掴んではなさないその空は、よく知る彼のように自由気儘なのだから。


title:泡沫


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