ゼノブレ | ナノ


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酷く悲しい夢を見て、目を覚ます。目に映るのは変わらない天井。耳が捉えるのは両隣のベッドで眠る友の呼吸音。メリア・エンシェントは長い溜息をついた。またか、と胸の中で呟く。その夢の内容はアイゼルたちの死の場面であったり、父であるソレアンの身体に巨大な機神兵の爪が突き刺さったあの時であったり――敬愛する兄カリアンがテレシアとなったあの時であったりする。幾ら手を伸ばしても掴むことの出来ない存在。幾ら名を呼んでも届かない存在。まだ少女と呼べる年頃であるが、メリアはあまりに多くのものを失っていた。

「……」

メリアは同じ部屋で眠るフィオルンとカルナを起こさぬように注意をしながら程よく温まった布団から抜けだした。真っ暗では何かあった時困る、ということで点灯されたままの灯り。薄暗い室内。時計を見て、まだ真夜中であることを再確認する。ギィ、と小さな音をたてて扉が開く。そこでもう一度メリアはフィオルンたちを見る。起きる気配はない。部屋を出てそっと扉を閉じ、メリアはふうと息を吐いた。階段を降りて下へと向かう。この宿の一階には暖炉がある。落ち着いた空間がそこにはある。メリアはそこへと向かうと、白いソファに身を委ねた。目を閉じる。瞼の裏側に焼き付いているのは同胞たちと愛すべき存在の姿。失いたくなかった。失うわけにはいかなかった。それなのに、守れなかった命。自分の無力さが身にしみる。目を開くと、視界は涙で滲んでいた。泣かないと決めていた。泣くことで何かが許されるわけでもないし、自分の弱さを突きつけられるだけだと思っていたから。だが、堪えることは出来なかった。ぽろぽろと熱いものが溢れて止まらない。ハイエンター故に、長い時を生きてきたとはいえメリアはまだ少女である。背負うものが重すぎた。両手を顔に持っていって、ただただ少女は泣いていた。



夜中に起きてしまったというのに、フィオルンとカルナより早く目を覚ましてしまったメリアは小さな息を吐いてから部屋を出た。真夜中にそうしたように階段を降りる。宿の女将などが朝食を用意しているのだろう、パンの焼ける良い香りがした。夜中に腰掛けた白いソファには先客が居た。後ろ姿だったが、それが誰なのかはすぐにわかった。ダンバンである。ホムスの英雄と謳われる男である。今はシュルクが握っている神の剣モナドを彼は嘗て振るっていたという。階段を下りる音に気付いていたのだろう、ダンバンは視線をメリアの方へと向けた。絡まりあった視線。いつもならば、メリアはすぐに朝の挨拶をしただろう。だが、今日は――今日に限って出来なかった。穏やかなダンバンの眼差しが少しだけ何か違ったものに変わる。ダンバンはメリアの目が赤くなっていること、腫れていることにすぐ気付いたらしかった。

「メリア――お前――」

優しげな声ではあった。けれど、驚愕の色も帯びていた。メリアは何を言ったらいいかわからなくなってしまう。彼は立ち上がって、少女の側へと歩む。ダンバンの大きく、あたたかな手がメリアの肩に乗せられたのはそれからすぐのことであった。

「泣いて――いたのか?」
「……」

メリアはただ、頷いた。隠し事はしたくなかった。心配をかけたくないという気持ちも本物であったけれど、嘘はつきたくない。ダンバンはメリアにとって、とても大切な存在であるから。それはダンバンから見ても同じこと。悲しみも苦しみも分け合って歩んでいこう、そんなことを彼はいつだか言っていた。メリアは昨晩のことを言葉にした。泣いて、泣いて。それから眠れなかったということまで。ダンバンは「そうか」とだけ答えて、華奢な少女をそっと抱きしめる。ぬくもりを感じることで少しでもその傷が癒えたら――そんな思いがそこにある。大きく温かなダンバンの腕の中で、メリアはまた頬を濡らす。ひとりじゃない。それを改めて感じ取ることによって溢れた涙だった。


title:エバーラスティングブルー

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