ゼノブレ | ナノ


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最近、よく考える。私はあとどれくらいシュルクと一緒にいられるのだろう、と。



柔らかな風が頬に触れては過ぎ去っていく。私たちを見下ろす空は青く、澄み渡っている。巨神の脚にあたるガウル平原。私たちは二日程前からこの地に滞在していた。名を冠するモンスターを倒す為と、アイテム収集の為に。何処までも続く緑。朝露に濡れた草の上をモンスターが駆けていく。ずっと高いところを飛ぶ鳥は猛禽だろうか。私は空を見上げた。それから視線を下ろし、シュルクのことを見る。シュルクはモナドという剣を手に戦いを続けている少年で、私の幼なじみ。巨大な機神兵――フェイスのコアユニットにされていた私を、自分たちの世界である巨神界から、もうひとつの世界機神界まで彼らは追いかけてきてくれたのである。身体の大部分を機械によって改造された私のことを、昔と変わらない様子で接してくれるシュルク。そんな彼を見ていると少しだけ胸が痛んだ。私は、もう普通のホムスではないのに、と。この身体がいつまで保つかわからないというのに、と。

「どうしたの?フィオルン」

そのシュルクに、声をかけられた。そこには輝く空色の瞳がふたつ。金色の柔らかそうな髪が風に揺れている。彼はとても優しげな顔をしていた。微笑みを浮かべる口元。私は「なんでもないわ」と答える。とてもじゃないが今考えていたことを言葉にすることは出来なかった。彼を驚かせてしまうし、何より、言葉にしたら泣いてしまいそうだったから。だから心の中で叫ぶ。ずっとずっと、シュルクたちと一緒にいたい。これから先の未来を共に生きていきたい。けれど、この身体である以上、それは叶わない夢なのだろう。時が流れてすべてが変わったあと、私はシュルクたちのいない色褪せた世界を彷徨うしかないのかもしれないのだ。長命であるハイエンターの血をその身に流すメリアとだって、最後まで一緒にいることが出来るのかもわからない。

「でも顔色が悪いよ。具合でも悪い?」

心配そうな顔で、彼は言う。その言葉を耳にした仲間たちも私の近くへと寄ってきた。たったひとりの家族であるお兄ちゃんと、もうひとりの幼なじみであるラインと、コロニー6の衛生兵であるカルナと、ハイエンター族の皇女メリア、そしてノポンの村、サイハテ村の勇者であるリキが。

「だ、大丈夫よ。心配しないで、ね?」

戦いで少し疲れただけだと思うから、と付け加える。それでもみんなの顔から心配の色は消えなかった。本当に大切に思ってくれているのだろう、だからだろう、胸がちくちくと痛む。本当はやっぱり言葉にするべきなのだろう。不安を抱えたまま、私は深海のように寒く暗い世界を歩んでいる。光は遠い。その光の下でシュルクが、シュルクたちが生きているとわかっている。だから、辛かった。



「フィオルン――」

数時間が経過して、ひとりの少女が私の側へと歩み寄ってきた。私はみんなの輪から外れたところに立っていた。もう空は闇に包まれており、黒い空には無数の控えめな光が灯っている。私は振り返る。そこにはメリアの姿があった。こういう時、痛みを見抜いて側にきてくれるのはいつもメリアだった。

「やはり、辛いのだろう?」
「……わかっちゃう?」
「ああ」

メリアが済まなそうに答える。翼が夜風に揺れていた。

「前も言ったがな――シュルクには言わなくていいのか?」
「い、言えないよ……」

一緒にいたい。心からの願いはいつだって脆くて、痛々しくて。周りにメリアしかいないから、だろうか、それとも夜が訪れて暗くなってきたから、だろうか。ずっと堪えてきた涙が溢れだしてしまった。泣くまいと決めていた。それなのに堪え切れなかった。メリアは私の涙に気付くと、そっと手を肩に乗せてくれる。私より少し小さなその手はあたたかかった。

「フィオルン……」
「ごめ…ごめんね、メリア……泣かないって…決めてたのに……私――」

メリアは黙って私のことを支え続けていてくれた。私たちを見下ろす空は先程と変わらぬ表情。メリアが肩に乗せていた手を動かし、それで涙を拭ってくれた。それでも溢れだす雫。こんな顔ではとてもではないがシュルクやお兄ちゃんのところへ戻れない。心の中ではこれほどまでにシュルクを想っているのに、いずれ引き裂かれる未来。大声で嫌だと泣き叫んでも変わらない未来。だからせめて共にあれる今――シュルクの為に戦い抜きたい。最後の最後まで一緒に戦うというのは涙で濡れてもふやけない誓い。誓いを再び立てることで、少し落ち着きを取り戻した私はもう一度メリアに「ごめんね」と言った。先程の涙声よりはずっとはっきりした声で。メリアは静かに頷いた。それから私たちは並んで夜空を仰いだ。未来は相変わらず残酷な色を残したままだったけれど。


title:エバーラスティングブルー
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