ゼノブレ | ナノ


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白い世界が目の前には広がっている。目が痛くなるほどの純白。そんな世界で吹き荒ぶ風は酷く冷たかった。ここは、ヴァラク雪山。夜になるとあちらこちらから黄金色の光の柱が立つ、幻想的な場所でもある。そんなヴァラク雪山にシュルクたちが来た理由。それは幾つかある。そのうちのひとつがアイテムの収集だった。以前ここに来た時は集めることの出来なかったアイテムが幾つもあった。それをなんとかするべく、彼らは改めて白い世界に足を踏み入れたのである。今日のうちに集めておきたかったものは既に拾い集めることが出来た。一行はぱちぱちと音をたてる炎を囲みながら言葉を交わしていた。もうすぐ夜になる。彼らは少し早めに食事をとり終えていた。今夜の寝ずの番はフィオルンとメリアだ。ちなみに一行の腹を満たした食事を作ったのはカルナである。そのカルナはラインの隣で穏やかな目をし彼の言葉に耳を傾けていた。シュルクと話をしているのがダンバンとメリアだった。モナドを受け継いだ少年と、かつてそれを振るっていた英雄と、ハイエンターの皇女。特に深刻な話をしているわけではないようで、三人共時折笑みを浮かべている。リキはというと、この地で調査を行っているノポン族と会話中だ。フィオルンはそんな仲間たちのことをぼんやりと見つめてから、遠くへと視線を向ける。そこにあるのは白。穢れることのない白。フィオルンは胸元に手をやった。祈るように、願うように。その心の中で揺れる想いを、シュルクはまだ知らない。



「それじゃ、おやすみ」

仲間たちがそんな言葉を口にして眠りにつく。爆ぜる炎を見ているのは、寝ずの番であるメリアとフィオルンのふたりだけ。炎の向こうでゆらゆらと揺らめく友の青い瞳。フィオルンは黙ったままそれを見ていた。そのうちに視線に気付いたメリアが口を開く。「どうかしたのか?」と。メリアの言葉はいつだって優しい。

「あ、ううん。なんでもない。ごめんね、メリア」

フィオルンが笑って答えると、メリアは苦笑いをする。全てを知っているようだった。フィオルンが不安にかられているということを。何だかんだで長い付き合いだ。小さな嘘を見抜けるくらいにはなっている。フィオルンは言葉に詰まる。

「その身体のことか――」

今度は疑問符すら付いていなかった。彼女には全てお見通しのようである。

「やっぱり、わかる?」
「ああ……」
「前も言ったけど――そんなに不便、ってわけじゃないんだよ」
「……」

フィオルンは機械化されたホムスだった。機神界の手のものによって身体を改造されているのだ。故に彼女はいつも悩んでいる。望まぬして得た強大な力は、フィオルンの心を蝕んでいる。身体の大部分を機械化されているのだから。フィオルンがその辺りの不安を口にしたのは、メリアに対してだけであった。メリアは長命なハイエンター族であるから実際の年齢はかけ離れているものの、ホムスに換算すればフィオルンとさほど変わらない年。同年代の親友。そう表現するのが最も良いと言えよう。辛いことも喜びも共に分けあいながらここまで来た。ふたりのキズナは強く強く結ばれている。勿論、他の仲間たちともそうだ。けれど、ふたりの関係はほかの者との関係とは色も形も違う。どうやらメリアもまた次の言葉に悩んでいるらしい、沈黙がふたりを包み込んでいた。

「――何かあったらすぐに私に言って欲しい」

やっと言葉を発したメリアだったが、その声には複雑なものが絡まっていた。うん、と小さく頷くフィオルンの瞳は少し潤んで見える。また、雪が降る。悲しみや不安…そういったものと同時に、それらとはかけ離れたもっと輝くような感情をも覆い尽くしてしまうかのように。雪は深々と降り頻る。静寂と寒冷の世界で。フィオルンは立ち上がった。それを見たメリアは不思議そうな顔をする。フィオルンはそのままメリアのすぐ隣へと移動した。隣同士、ふたりきり。繋がり合うもの。それは見えないけれど確かに在る。

「…メリア」
「……どうした?」
「ううん――なんでもない」

時が流れていく様子を、ふたりは並んで見つめていた。


title:エバーラスティングブルー

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