ゼノブレ | ナノ


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闇の中を私は歩いている。自らが立てる足音ぐらいしか聞こえない。静寂の中を。ここはどこで、今はいつなのだろう。どうしてここにいるのかすら、もう思い出せない。少し前までその答えを知っていたような気がするのに。


「フィオルン…?」

遠慮がちに扉が開く。それと同時に、聞き慣れた声。新緑の中響く小鳥の囀りのような、そんな声。私は視線をそちらへと向ける。声の主は静かに部屋へと入ってくる。頭にある白い翼は、ハイエンター族の証。瞳は青々とした木々に囲まれた神聖な湖のような色をしている。髪色は銀で、肩のあたりでぐるりと円を描いている。彼女の名はメリア・エンシェント。私の仲間であり、友でもある、とても大切な存在だ。

「どうしたの?」

時計を見れば、午後十時を回っている。ここはコロニー9にある、私とお兄ちゃんの家。私たちはコロニーでの用事を済ませる為に二日前、故郷に帰ってきた。私と、お兄ちゃんと、シュルクと、ラインの故郷。それがここ、コロニー9だ。ここに戻ってくるとメリアは決まって私の家に泊まる。ちなみにリキはシュルクのところで眠り、カルナはというとこの街で親しくなった少女の家に泊まっている。

「いや…少し、寝付けなくてな」
「……そっか」

私は小さく微笑んだ。自分もまだ眠くはなかった。それに、彼女と話をしたいと思ったからだ。私はメリアを手招きする。ふたりでベッドに腰を下ろした。壁掛け時計が時を刻み続けている。カチコチという音がやけに高く響いた。

「そういう日もあるよね」

メリアにそう言うと、彼女はふ、と笑んで頷く。

「私も今夜はなかなか眠れないだろうなって、思ってた」
「そうなのか?」
「うん……いろいろ、考えちゃって」

私がそう口にすると、メリアは俯いた。円を描く髪が一度跳ねる。私の過去を彼女はすべて知っていた。この街を襲った悲劇を。そう、この街――コロニー9も機神兵に襲撃されたのである。機神兵は無差別にホムスを殺し、喰らった。悲しみや恐怖に満ちた声と、尊いものが焼ける臭い。それを私は――いや、私たちは忘れることが出来ない。そして私は機神兵に立ち向かい、敗れた。鋭利な爪に、牙に。引き裂かれ、貫かれ、自らの身体が自らの鮮血で染まるのを見た。すべては街を――彼を、助けたいがための行為だった。しかし私を取り囲む現実は少しずつ色褪せていって、気付けば私の心は身体は縛られてしまっていた。目覚めたとき、私は私でなくなっていた。そう、フェイスという巨大な機神兵のコアユニットとして「生かされた」のである。紆余曲折の後、私はシュルクやお兄ちゃん、ラインと再会し、リキとカルナ、そしてメリアと出会った。機械の身体に作り替えられた私は彼らとともに戦う道を選んだ。迷いは無かった。自分を取り戻す為にここまで来てくれた大切な人たちを今度こそは守ってみせると、ひとり、静かな誓いをたてたのだ。すると世界は色を取り戻し、音が溢れ出した。闇から光へ。ああ、私はここにいていいんだ。そう許された気がした。もう絶対に離れ離れにならない。この手はみんなを守る為のもの。望んで得た力ではない、けれどこの力を――この機械の身体を、大切な人たちの為に使っていきたい。そう願ったのだ、とても強く、強く。


メリアと私はしばらくの間、幾つもの言葉を交わしあった。時計の針が示す時は、もう深夜と呼べるもの。けれど、話したいことが山程あった。それを語り合った。有意義な時間だったと言ってもいい。その内容は悲しく、辛い、そんなものも多かったけれど、私はメリアを知りたかったし私のことも知って欲しかった。負の部分を含めて。


「ねぇ、メリア」
「なんだ?」
「明日、ちょっと早く起きられたら、一緒に散歩でもしない?」

この街をもっと見て、もっと知ってほしい。そんな願いが私の胸にある。

「そうだな」

彼女はこくりと頷いた。お互いを知ることによって、関係が少し変わりつつあることを私は察する。きっと、彼女も同じだろう。もし彼女が暗闇で彷徨い歩いていたのなら、怯まず手を差し伸べられる、そんな自分になれたのだと。黒い静寂の世界に、優しい音と光を運べる自分になれたのだと。

「それじゃ、もう寝ないとね」
「……ああ」
「メリア、おやすみなさい」
「おやすみ、フィオルン」

夜が更けていく。私はベッドに潜り込み、瞼を閉じる。少しだけ強く慣れた自分を褒めてもいいはずだ、私は胸の中でひとつの言葉を呟いてから眠りへと落ちていった。きっと、メリアも同じ世界へと足を踏み入れているだろう。


title:空想アリア

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