ゼノブレ | ナノ


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深々と夜が更けていく。恐ろしいほど静かだった。自分の心臓の音が隣にいる彼に聞こえてしまうのではないかと思うほどに。カルナはそのようなことを考えつつ、ちらりと彼を見た。彼――ラインはカルナの視線に全く気付いておらず、先ほどの心配は雪のように溶けていった。カルナから見て、三つ年下のラインはやや単純なところがあるが仲間思いの優しい青年だった。特徴的な赤い髪。がっしりとした体格。戦いの場となれば皆の強固な盾となる。そんな彼はモナドを振るう少年シュルクの親友でもあった。そのシュルクはというと、半刻前に見張りをラインとカルナに交代して、眠っている。彼だけでなくダンバンも、フィオルンも、メリアも、リキも眠っているはずだ。沈黙が続く。ラインはずっと赤い炎を見つめており、何かを発する気配はない。その炎は七人の中で唯一古種族ハイエンターの血をその身に流すメリア・エンシェントが炎のエレメントを召喚し熾したものである。カルナは空を見上げた。真っ黒な空に瞬く光。エルト海まであがればもっと沢山の輝きが見える。しかし、ここで見るそれもまた美しい。そんな事を思う彼女の耳に、声が届いた。

「カルナ」
「――ライン」

カルナは微笑んだ。ラインもまた優しい目をしている。

「疲れてないか?もし疲れているんだったら――」

寝てもいいんだぜ、と言いかけるラインにカルナは「大丈夫よ」と言う。彼の声にそっと重ねるかのように。それを耳にしたラインは一瞬困ったような顔をし、それからそれを振り払うかのように首を横に何遍も振った。彼は自分より年下なのに、こうやって大人らしく見える時がたまにある。シュルクやフィオルンと喋っている時は歳相応の表情をしているのに。戦闘の時や、こういうふたりだけの時。そこにカルナはつい、ガドのことを重ねあわせてしまう。ガドはカルナの婚約者だった。何事もなければ、彼と結婚し新たな人生を歩んでいたはずだった。運命は残酷である。だが、同時にラインとの出会いもまた、そういった運命の一部だったかのように思う。カルナは僅かに笑みを落とした。そして思う。ラインの存在は少しずつ大きくなっているのではないか、と。だがカルナもラインも、それ以上踏み込むことはない。今のところは、「今の関係」が心地よいのだ。見つめ合うと照れくさくなってしまうのは、恐らくまだ進むべきではない道のスタートラインへ立ちかけているからだ。道はあるのだ。だが、まだ早い。ガドへの想いを断ち切れない、今の自分では。いつか一緒にその道を歩む日が来たら、手を取って進んでいくつもりだ。カルナは自分に言い聞かせてから、ふたたび彼を見る。彼もまたカルナを見ていたが、ふたりはほぼ同時に目を逸らした。ふたりとも頬が赤い。それはきっと炎のせいではない。

「今日の戦いでも、俺はカルナに助けられたよ。本当にありがとな!」
「ふふっ、突然どうしたの?」

自然な笑みを浮かべ、カルナが問いかけるとラインは頭を掻いた。

「いや、いっつもそうなのに礼を言ってない気がしてな」
「いいのよ。みんなをサポートするのが私の役目なんだから」

カルナは治癒エーテルを専門としている。体力を回復したり、状態異常を解除したり、と。戦いを繰り返す日々。もしカルナがいなければここまで辿り着けなかったかもしれない。それくらい彼女の存在は大きい。シュルクも多少はそういったものを使えるが、エキスパートであるカルナと比べるとその差は歴然だ。ガウル平原でシュルク、ラインがカルナと出会ったこともまた、運命的であったのかもしれない。あれから短くない時が流れ、今では声を大にして言える。自分たちは仲間であると。それ以上の想いはまだ、花開くまでにはなっていないけれど。これからもよろしく、という言葉を交わして、ふたりは黙する。暫くの間、それは続く。カルナの瞳とラインの瞳が相手を映し合うのはそれの後か――それとも。


title:空想アリア

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