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「――メリア」

皇都アカモート。ここは、ハイエンター族の暮らす浮遊都市。エルト海に浮かぶ、美しい都市だ。訳あって此処へとやってきたシュルクたち。そのやることも済んだので、夕食まで自由時間となった。故郷へと戻ってきたハイエンターの少女、メリア・エンシェントは長い時を過ごした離宮にいた。たくさんの花が咲き乱れる美しい場所。そんなメリアに声をかけた少女は、フィオルン。シュルクとラインの親友であり、英雄ダンバンの妹でもある彼女は普通のホムスとは違う。――機械化されているのだ、身体の七割以上が。無機質で冷たい機械で組み替えられているのである。それでも彼女は穏やかに微笑む。メリアはそんな少女の声に気付き、体を動かし、彼女を見据えた。スカイブルーの瞳に映るのは、綺麗な金髪。そして、緑色の宝石のようなふたつの瞳。

「やっぱり、ここにいたんだね」
「――ああ」

メリアが笑った。屈んで、花に目線を合わせる。そんな彼女もまた「普通」のハイエンターとは違う。混血なのだ、ホムスとの。その為、彼女の頭部の翼は極端に小さい。ひらひらと揺れ風と戯れる彼女の翼と、銀色の髪。くるりと巻かれた銀の髪は、ひどく高級な糸のようだ。フィオルンはメリアに近寄って、それから彼女に倣うかのように屈む。ふたりは同じ花を見る。メリアが此処を離れている間も、きちんと手入れがされているようで、花々は美しく咲き乱れていた。光に照らされ輝くもの。風といっしょに踊るもの。芳しい香りを放つもの。夢の様な空間だった。ここは、メリアにとって特別な場所だった。

「フィオルンはシュルクといると思っていたが」

フィオルンに目を向けて銀髪の少女が言葉を紡ぐ。

「シュルクはお兄ちゃんと一緒。なにか話すことがあるみたい」
「ふむ…そうか」
「ラインとリキとカルナは、三人で買い物に行くって言ってたなぁ。あ、これはメリアも聞いてたっけ?」
「ああ。カルナの防具を見に行く、とな。あと、集めたアイテムを売りたい、とも言っていたな」

風が吹き抜ける。メリアは立ち上がった。裾を払い、続いて立ち上がろうとする少女に手を貸して。ありがとう、という感謝の言葉が紡がれた。鳥の声がする。ふたりは数十秒間それに耳を傾けた。その美しい歌声に。
メリアとフィオルンは仲が良かった。ふたりの間には、種族を超えた友情が存在している。長命なハイエンター族の血をその身に流す為、実年齢こそダンバンやリキを軽く上回るメリア・エンシェントだがホムスに換算すればフィオルンとは然程変わらない年頃の娘だ。いろいろと気が合うらしく、共に戦うことも、話すことも、一緒にいることも多かった。メリアはフィオルンの話を聞くことが好きらしく、その逆もまたそうであった。実際、今もそうである。フィオルンはメリアと話をしたくてここまで来たのだから。メリアもそんな彼女を待っていたのかもしれない。この、思い出の場所で。
花々の香りの中で、メリアが誘う。離宮の中に入ってお茶でもどうか、と。そう誘われたフィオルンも嬉しそうな顔をして頷く。さらさらと踊る髪。甘い香りを纏って。ふたりだけの時間が、流れていく。それはほんの僅かな時間かもしれない。すぐに終りを迎えてしまうかもしれない。それでも、幸せな時であることは間違いなかった。


title:泡沫

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