ゼノブレ | ナノ


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長い長い戦いは終わった。そして一年の月日が流れた。私はひとり、コロニー9の公園にいた。“彼ら”の大切な故郷であるコロニー9に、久しぶりにやってきた私が一番最初に目指したのが此処――「見晴らしの丘公園」であった。いつものようにベンチには座らず、ただ立って目の前に広がる美しい景色を眺める。大切な友人であるフィオルンに、コロニー9に行くから皆に会いたい、といった連絡はしていた。これから私は彼女と彼女の兄の家に行くことになっている。もうすぐ、午後の十二時。フィオルンは私のために昼食を作ると言っていた。ダンバンは勿論、ラインも、そしてシュルクも来てくれるらしい。彼らは大切な仲間。皆に会えるのは嬉しい。長いこと会っていなかったから、話したいことも聞きたいこともたくさんある。それでも胸がちくちくと痛むのは何故だろう。いまでも過去がちらつくからなのだろうか。私は青い空を仰ぎながら問いかける。だが答えはない。答えが返ってこないことを知りながらも、私は問いかけていた。

そろそろ彼らが私を待っているダンバン邸に行こうか、と私は思いくるりと身体を動かす。頬を撫で、裾や髪と戯れる風はとても穏やかなものだった。私は階段を下りていく。かつん、こつん。無機質な足音が響く。小鳥たちの囀りと日の光が降る下を、ひとり歩いていく。目の前に広がる緑。時折、空の青を見ながら私は街へ向かう。胸がドキドキした。ちくちくとした痛みを打ち消すかのように。
久々のコロニー9。せっかくだから、居住区と中央区を抜けて商業区の先にあるダンバン邸へ行くことにした。街にはホムスやノポンだけでなく、もともとは機神界で生きている機神界人(マシーナ)や、生き残ったハイエンターの姿も見られた。ハイエンターたちは私を見て、はっとして頭を下げる。ホムスとの混血とは言え、私の身体には皇主の血が流れているからだ。そしていまコロニー9やコロニー6などで生きているハイエンターは、私と同じですべて混血。ホムスの血を流す者にはあの悲しい運命は降らない。私は大好きだった父上と兄上のことを思い出した。巨神に還った父上、兄上。それに、アイゼルたちやアカモートの住人たち。今でも私は彼らに会いたいと思ってしまう。だが、どうか安らかに眠って欲しいとも思う。商業区を行く私の耳には、行き交う者たちの声が入っては通り抜けていく。賑やかな街で、私だけが浮いているように思えた。私以外のすべてがよく出来た映像のように――。フィオルンたちに会えるというのに。それはなによりも嬉しいことなのに。こんな暗い気持ちを抱えているなんて。私はぶんぶんと首を横に振る。暗いそれを振り払いたくて。


「メリア?」

そんな私に背後から声がかけられる。優しげな、懐かしい声。ずっとずっと、会いたかった彼の声。私は振り返った。そこには柔らかそうな金髪、抜けるような青空に似た色をした瞳をした少年。ともに戦った仲間。嘗て神の剣モナドを振るっていた少年――シュルクだ。私の心臓が高鳴った。ああ、私はまだ消せずにいるのだ、彼への想いを。白い蝋燭とゆらめく炎のように、音もなく溶けて消えてしまえば良かったのに。そう思うけれど、はじめて抱いた感情を忘れたくないとも思ってしまう。

「――久しぶりだな。シュルク」
「そうだね」

元気そうでよかった、とシュルクは笑う。私の胸にある複雑な想いには気付かずに。そんなところも含めて、私は彼が好きだった。シュルクやフィオルンたち――いや、ダンバンやリキ以上の長い時を生きてきた私が、忘れたくないと願う初めての想いを芽生えさせた彼。フィオルンとシュルクは幸せになるべきだ。そう思うのもまた真実。私は再び首を振り、それからシュルクの綺麗な瞳を見た。

「シュルクも元気そうだな。フィオルンやダンバン、ラインも元気にしているか?」
「うん」

そう短い言葉を発した後、でも、と付け加えるシュルク。「フィオルンはしばらくは月に二回くらいリナーダさんに診てもらってるけどね」と。そうなのかと私が頷けば「そろそろ行こう」とシュルクは一歩を踏み出し私の隣に立って笑った。私たちは歩き始めた。あたたかな風が、私とシュルクの間を埋めた。繋げることの出来ない手。私は風と手を繋ぐ。シュルクは彼女と手を繋ぐべきだから、と。シュルクはどうしたの?と首を傾げたが、私は微笑みを浮かべて歩く。ラインは一緒ではないのだな、などと話しながら歩けば、あっと言う間に正面口の側にあるダンバン邸に到着した。因みにラインは防衛隊の訓練が長引いているので遅くなるという。シュルクが私の前に出て、扉をノックした。コンコン、と乾いた音が響いた。

「はーい!」

可愛らしい声。フィオルンだ、シュルクが扉を開けて中に入る。私もそれに続いた。フィオルンの笑顔が視界に飛び込んでくる。ダンバンは椅子に座っており、私たちを見ると僅かに笑ってみせた。座って座って、とフィオルンが言う。シュルクと私はあいている椅子に腰をおろす。フィオルンの右隣がシュルク、左隣に私。私の左にはダンバンが座った。そしてシュルクの右にはラインが座ることになる。テーブルには美味しそうな料理がたくさん置いてあった。サラダに魚料理、肉料理。それに湯気をあげているスープに、かりかりに焼けたパン。すべてがフィオルンのお手製だ。

「メリアに会うのは久しぶりだから、ちょっと頑張っちゃった。たくさん食べてね」
「ああ、ありがとう。フィオルン」


三十分ほど遅れてラインが来、五人はスプーンやフォーク、ナイフに手を伸ばした。どれもこれもすごく美味しかった。皿があっと言う間に空になっていく。後片付けは私とフィオルンでやった。フィオルンは座ってていいのにと言ったが、私は手伝いたくて手を止めなかった。フィオルンがありがとう、と言う。私はきっと、彼女のその台詞が欲しかったのだろう。片付けが終わると、私とフィオルンはまた椅子に座った。話したいことは山ほどあった。ずっと会っていなかったから、私は皆にいろいろなことを聞きたかったし、彼らもまた私の話を聞きたがった。しばらくの間、私はコロニー9に滞在するのだから何も今たくさん話さなくてもよかったのだが言葉が溢れて止まらなかった。
話が一段落すると、フィオルンが立ち上がり私の名を呼んだ。よかったら一緒に外に行かない?と。私は頷いた。ダンバンとライン、そしてシュルクは私たちが家を出て行くのを優しそうな眼差しで見守った。

フィオルンと私が向かったのは「見晴らしの丘公園」だった。さっきも此処に来たとは言わなかった。私もフィオルンとふたりになりたかったし、フィオルンもまたそうなのだろう。公園は静かだし、ふたりで話すには何処よりもいい場所だと思えたから。私たちは様々な話をした。私はシュルクと彼女のことを問いかけた。彼女は恥ずかしそうに頬を紅潮させる。それだけで全てわかってしまった。ちくちくとした胸の痛みが、いま、すうっととけていく。音もなく消えていく。降り注ぐ光の下、私が願うのは彼らの幸せ。まだ、想いは消えていないけれど。ずっと前に、身を引く決意はしていたけれど。忘れなくたっていい。改めて私は願う。まだ、彼以上の存在は見つけられずにいる。これからだって見つかるかはわからない。もしかしたら――シュルクにだからこそ、親友であるフィオルンを任せられるのかもしれない。少し離れた場所でふたりを見ていたい。それが、新たな願いであり思いであった。


title:白々


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