ゼノブレ | ナノ


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爽やかな風が通り抜けていく。ハイエンター族の少女、メリア・エンシェントはひとり佇んでいた。仲間たちは脱出艇キャンプにいる。なんとなく、ひとりになりたくてキャンプを出た。コロニー6の人々がしばらくの間生活していた其処は、シュルクとラインがカルナに初めて会った場所でもある。フィオルンとカルナが昼食を作り、皆で食べた。片付けをして、それから自由時間を与えられたのだ。シュルクはダンバンと何やら話し始め、ラインとカルナとリキはアイテムを整理し始め、フィオルンは奥で少し休むと言っていた――つまり、メリアだけが脱出艇キャンプから離れたという事になる。誰もメリアをとめなかった。メリアの力を皆、認めているからだ。エーテルを操り、戦うハイエンターの少女のことを。

「……」

メリアは無言で空を仰ぐ。猛禽類だろうか。大きな鳥が飛んでいくのが見えた。低木は風と戯れ、草花は風に香りを託す。メリアは辺りを見回してから、柔らかな草の上に腰を下ろした。草のにおい。降り注ぐ光。ハイエンターの証とも言える頭部の白い翼と、銀の髪が風に弄ばれる。ひとりきりになるなんて、本当に久しぶりのことだった。いつも誰かが隣にいた。戦うとき、食べるとき、眠るとき、話すとき――。今は、風だけが傍らにある。光の中で、少女は想う。大切な人たちのことを。ざわざわと木の枝や葉が騒ぎだしたので、少女は立ち上がった。それから、ふたたび大空を見る。青い、青い空。メリアは此処より遥か上――巨神界上層部アカモートで生まれ育った。シュルク、ライン、そしてダンバンとフィオルンの故郷コロニー9の土を初めて踏んだのもつい最近のことである。コロニーの人々は深い悲しみの中であっても、希望を捨てずに生きていた。その力強さに、メリアは感動した。それと同時に、自分も強くならなくてはと思った。ひとり、メリアは改めて願った。皆の力になれますようにと。皆の側にいられますようにと。また、風が吹く。広い広い世界の片隅。青い瞳の少女の願いは、優しい亜麻色の光に包まれて上へ上へと飛んでいった。少女は歩き出す。大切な人たちが待つ、あの場所へ。そんな少女の真上をまた大きな鳥が飛んでいったけれど、彼女は気付かなかった。その代わりに、彼女の小さな翼が風を受けてひらひらと揺れ動く。ゆっくりと歩む少女は足元に落ちていた猛禽類の風切羽を拾い上げる。そしてそれをじっと見つめて、微笑んだ。自らの羽根と、全く違う色をしたそれを見つめて。仲間たちの待つ脱出艇キャンプはもうすぐだった。

――これはとある日の、小さな小さな出来事。


title:白々


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