ゼノブレ | ナノ


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――その鳥を見つけたのはフィオルンだった。

僕たちはテフラ坂をのぼっていた。ラインが僕にエーテルシリンダーを取ってきて欲しいと頼み、一緒にいたフィオルンも僕と行く、と口にしたので、だ。エーテルシリンダーはテフラ洞窟を抜けた先の格納庫にある。本来ならばライン本人が行くべきだが、彼は忙しい。ちょうど今日はフィオルンも僕も予定がなく暇だったので、快く引き受けた。エーテルシリンダーを取りにいくことも防衛隊員の仕事であるのだが、ラインには他にやることがあるという。僕たちと過酷な旅をしたラインはあの防衛隊長が認めるほどの力をつけていた。新人の相手になったり、ベテランと話し合ったり、いろいろあるのだろう。僕はそんなことを考えながら坂をのぼる。すぐ横を歩くフィオルンを見る。彼女の短い金の髪は、穏やかな風に揺れている。前に、長いのと短いのどっちが好き?と僕に問いかけてきたことがあった。僕はその時、どっちも好きだよと答えた。だが今に考えてみると短髪もとても似合っているように思うし、可愛らしいとも思った。恥ずかしいので口にはしないが。

「見て、シュルク!」

僕を現実へと引き戻したのもフィオルンの声だった。彼女は枝を思い切り伸ばした木を指差している。僕はその指が指し示す方に視線をやった。細い枝に、鳥が止まっている。羽を休めているようだ。

「青い鳥だ…」

そう、その鳥は美しい青色をしていたのだ。僕の瞳の色に少し似ている、とフィオルンは笑う。鳥は黒い嘴をあけ、歌い始めた。美しい旋律。僕らのことに気付かないでいるのだろうか。僕とフィオルンはその歌声に聞き入る。風が歌を運び、木々は葉を揺らす。それが伴奏となって綺麗なハーモニーを作り出している。遠くから響いてくる別の鳥の歌声は、コーラス。青い鳥を実際に見たのは初めてだった。この囀りは少し、聞き覚えがあるけれど。フィオルンもそうなのかも知れない、鳥から目を逸らさずにいる。それから数分間、そうしていた。青い鳥は歌い終えると、やっと僕たちの存在に気付いたらしく、恥ずかしそうに飛び去ってしまった。青い翼で、羽ばたいて森へと溶けていく――。

「行っちゃったね…」
「うん」
「すごく綺麗だったね、感動しちゃった」

フィオルンは手を胸のあたりに持ってきて言う。僕も同じ気持ちだったので、彼女の隣で頷いた。木々はまだ奏で続けている。遠くの鳥も、まだ歌っている。僕とフィオルンはそれもしばらく聞いてから、また歩き始めた。あまり遅くなると、ラインに迷惑がかかり、フィオルンの兄であるダンバンさんを心配させてしまうから。僕はフィオルンの手をとった。彼女が頬を紅潮させ、え?と言葉を漏らす。僕は笑み、そして彼女の手をぎゅっと握った。

――もう絶対離さないよ、フィオルン。

いつかの誓いがよみがえってくる。もう、彼女を失いたくない。青い鳥に奇跡の力があるのならば、彼女と共にあれる日々がずっとずっと、長く長く続きますようにと願いたい。フィオルンも照れくさそうに笑ってから、僕の手を握り返してくれた。


title:空想アリア


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