ゼノブレ | ナノ


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花の甘い香りがする。爽やかな風が吹き抜けていた。ここは、巨神の脚にあたる場所に広がるガウル平原。現存するふたつのホムスのコロニー、コロニー9とコロニー6を結び付ける、広大な地だ。シュルクたちはコロニー6の人々にモンスターを倒すよう依頼を受けて、ここにやってきた。依頼はみっつ受けていた。そのうちのひとつを達成し、今は木陰で身体を休めている。シュルクはライン、ダンバンと共に武具の手入れをしており、カルナとフィオルンは何やら話をしている。リキは何がしたいのか、ぴょこぴょこと跳ね、それからくるくると回っている。この旅のメンバーで唯一のハイエンター族である、メリア・エンシェントの姿だけがなかった。カルナとの会話が一区切りついたフィオルンは、それに気付いて辺りを見回す。近くにはいないようだ。フィオルンはカルナに「メリアをさがしてくるわ」と告げ、それを聞いたリキも一緒に行くと言う。カルナは機械化されたホムスの少女と、サイハテ村の勇者を見て「気を付けて」と言いながらふたりを見送った。昼の二時頃のこと
だった。

「あ、メリアちゃんだも!」

メリアは意外と近くにいた。花が群生しているのをしゃがんで見ているようだ。ハイエンター族の特徴である、頭部の白い翼が風で揺れている。聞き慣れたリキの声を耳に入れ、少女は立ち上がった。それと同時に風が吹き抜けていき、甘い香りが三人を包み込む。メリアは裾のあたりをぱっぱと払い、それから澄み切った青い瞳でフィオルンとリキを見た。

「わざわざ探しに来てくれたのか?」

すまない、とメリアが頭を下げる。それを見てフィオルンは「気にしないで」と優しい声で言った。リキもぴょこぴょこと跳ねてからメリアのそばまで行く。メリアちゃんが無事で良かったも、ととても嬉しそうな表情をして言いながら。メリアは視線をリキ、フィオルンへと動かしてから空を見上げる。傷口に沁みるほど青い青いそれを。メリアが見ているのは、遥か彼方にいる兄や同胞なのかもしれなかった。フィオルンは気付いていた。時々メリアが遠くにいる大切な人たちを想って悲しげ、寂しげな顔をすることに。その表情があまりにも痛々しく見えたので、そっと抱きしめたくなったこともある。今回も彼女は「仲間」から離れて、「仲間」を想っていたのだろう。花々の香りに包まれながら。

「――そろそろ戻らないとな」

メリアが言った。リキも頷き、フィオルンもまた頷く。美しい空は三人を見下ろし、穏やかな風は三人の背中を押す。それに寄り添う、草原の香り。三人は肩を並べて歩いた。歩いている間は、ずっとリキがしゃべっていた。サイハテ村での出来事や、食べ物の話。仲間のこと。その他、たくさんのことを。しばらく歩くと、シュルクたちの姿が見えてきた。ラインがメリアたちに手を大きく振っている。シュルクとカルナは微笑んでおり、ダンバンも良い表情をしていた。

「ただいまだも!メリアちゃんは、勇者リキが発見したんだも!」
「はは、すごいよ、リキ」

シュルクが言うと、フィオルンが笑った。メリアはシュルクたちに「突然いなくなってすまない」と謝り、カルナがそれに「いいのよ」と答え、ダンバンも「誰だって一人になりたくなることもあるから、気にするなよ」と頷きながら言った。また、優しい風が吹く。草のにおい。そして、木々のざわめき。鳥の囀り。ここだけを切り取れば、世界はとても平和に見える。だが、そうではない。シュルクたちは戦っている。シュルクはモナドを握り、その仲間たちも武器を振るう。未来を掴むための闘いは、まだまだ終わらず、シュルクたちを待つその未来もまだはっきりとは見えない。歩みを止めるわけにはいかない。この世界に生きる、すべての生命のためにも。七人は進んでいく。巨神界と機神界。ふたつの世界は、回り続ける――。


title:白々


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