xenoblade
巨神界上層部――エルト海で迎えるとある朝。朝食をとり終えたフィオルンとメリアはふたりでシウェラート灯台をあとにした。今日は付近でモンスターを倒し、アイテムを集めることになっていた。だがシュルクやダンバンは灯台守と話すことがあるらしく、彼らは仲間たちに自由時間を与えた。ちょうど二時間程度、だ。誘ったのはフィオルンの方だった。なんとなくメリアと――ここ上層部で長い時を過ごしたハイエンターの少女、メリア・エンシェントと話をしたかったのだ。メリアはハイエンター族故にかなり長い時間を生きている。だがホムスに換算すれば、フィオルンやシュルク、ラインより僅かながら年下となる。だからフィオルンは同年代の友人が出来た気分だった。そしてそれを嬉しく思った。メリアもまた、フィオルンという友を得たことを嬉しく思っているはずである。
二人は何てこと無い話をしながら歩いた。転移装置を使って灯台からある程度離れた場所まで辿り着くと、そこで足を止めて辺りを見回した。空の青、海の青がまぶしい。浮かぶ雲は綿を千切ったようにも見える。この海の下には深い緑が広がっていて、それよりずっとずっと下にフィオルンたちの故郷、コロニー9はある。フィオルンはそう考えて恐怖すら感じた。ここから見える皇都アカモートで生まれ育ったメリアはそんな風に思わないんだろうな、とも。潮風にメリアの銀髪が揺れている。フィオルンはそれを見つめてから、また青を見る。エルト海には何回も来ている。だが今日ほど綺麗だと思ったことはなかった。しかも朝にこうやってじっとそれらを見たことも、なかったかもしれない。言葉に出来ない感情が胸の中に広がっていく。広く美しい世界の片隅に立ちながら。
「フィオルン?」
メリアがフィオルンの名を呼んだ。どうしたのだ、といった気持ちが込められている。フィオルンはメリアに声をかけられてやっと深い青から手放されることが出来た。機械化されたホムスの少女は笑う。何でもないわ、と口にしながら。それは嘘偽りではなかった。ただ、広がる世界に見とれていただけだから。メリアもそれ以上問わなかった。フィオルンと同じように、果てしなき青を見つめては何かを思う。
「綺麗だね…」
フィオルンの唇が無意識に動いた。ずっとずっと、思っていた言葉が台詞となって飛び出す。ハイエンターの少女はただ頷いた。彼女の台詞を聞くことで、改めて自分を取り巻いていたものの美しさを実感しながら。二人がいる場所は何故かモンスターがいなかった。だから警戒を緩めて、穏やかに海や空を見ることが出来た。メリアはなんとなく少女のことを視界に入れる。木々の緑に酷似したふたつの瞳は蒼穹を映す。メリアは小さく笑い、それから彼女に倣うかのように世界を見た。何もかもが美しく、それでいて力強い。メリアは、フィオルンは、同じ時代に同じ世界に生まれ落ち、生きていることに感謝した。
title:泡沫