ゼノブレ | ナノ


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マクナ原生林。亜熱帯性気候の影響により、巨大化した生態系が特徴的な緑溢れる楽園。メリア・エンシェントは仲間たちの輪から静かに抜け出て、確かめるように一歩一歩森を歩く。彼女たちが巨神の背中にあたるここ、マクナ原生林に来たのはこの森に住むノポン族の依頼をこなすため。その依頼はモンスター退治やアイテム収集など、様々だった。アイテムをなんとか集め終えたメリアたちは、時間も午後十二時を回ったことだし、簡単に昼食をとろう、と、そういうことになった。メリアがおこした炎で湯を沸かし、フィオルンがスープを作る。街で購入したパンをカルナが皆に配った。お腹いっぱいは食べられないが、仲間と一緒に空気のよいところで食べるから、とても美味しく食べられる――シュルクがそんなことを言っていたのをメリアは思い出しながらも歩みを止めない。ノポン族のリキが「シュルク、いいこと言うも!」と言っていたことも。リキはふるさとのマクナに戻ってこれて嬉しそうだったな、とも。
メリアは木々をくぐり抜けて先に進む。そうしているうちに、少女は辿り着く。緑の中に、満ちる花。黄色い花々が咲き誇る場所へと。メリアは「キイロの花畑」と呼ばれるこの場所が大好きだった。リキに教えてもらって、僕も興味があると言って付いて来たシュルクとともに見た花畑が。さあっと風が吹いていく。メリアの銀髪は、翼は、それと戯れる。ハイエンターの少女は屈んで花弁に触れた。薄く、儚い花びら。それでも精一杯咲いて、雨を待ち、そしていつか散り、枯れる。実を結べば、またいつか生まれ変わった花が咲き乱れる――メリアのブルーアイが黄を映し出す。花を愛でる少女は綺麗だな、と思った。マクナにはこれ以外にもたくさんの花が咲く。観賞用として重宝される「アイヤマ」や茎に棘を隠す「ノキス」、黒い花弁が音符を思わせる「ハミングオオバ」、そして古の姫君が好んでいた「ヒメミレス」などなど。それらの中でもメリアは「アイヤマ」と「ヒメミレス」が好きだった。ここまで歩いてくる途中でも、アイヤマを見かけたな、などと思いながら少女は立ち上がった。そろそろ行かなければ。仲間を心配させる訳にはいかない。メリアがくるりと体を反対方向に向けた、その時だ。遠くから見知った顔がこちらに歩いてくるのを見た。それは――

「シュルク…!?」

何故ここに、とメリア・エンシェントは思った。金髪の少年の手にはモナドがある。間違いなくシュルクだ。彼はメリアのすぐ隣にくると、そっと笑った。

「やっぱりここに居たんだね、メリア」
「シュルク――そなたは…」

何故私を探しに?とメリアは言いかける。それが喉元まで上がってきたその瞬間、彼が口を開きこう言った。僕も花を見たかったのだ、と。そしてそんな彼の手にはヒメミレスの花があった。彼は言う。ヒメミレスが群生していたので一輪、摘み取らせてもらったのだと。そういうシュルクもメリア同様、この花が好きだと言っていた。いつだったかまでは覚えていないが。メリアはそうなのか、と目を細め、ヒメミレスを見る。シュルクは手にしていたその花を、静かにメリアに渡そうとする。

「シュルク…?」

受け取るべきなのか。よくわからなくなったメリアにシュルクはうん、と頷いた。それを見た少女は戸惑いながらもそれを受け取る。ヒメミレスの薄い花弁が風を受けて揺らめく。「古のお姫さまが好きだった花なんだって」とシュルクは言い、「だからメリアに、って思ったんだ」と付け足し頭を掻く。メリアは――メリア・エンシェントは、ハイエンター族の皇女だった。

「ふふ…ありがとう、シュルク」

メリアが花のように微笑んだ。手にしたヒメミレスと、目の前に広がる黄色い花々が彼女の世界を華やげる。シュルクも笑った。メリアは草花を愛する少女だ、彼女の暮らしていたアカモートの離宮にもたくさんの花が咲いていた。シュルクは彼女に喜ばれ、彼もまた喜んでいるに違いなかった。生ぬるい風が吹く。美しく色付いた世界で、ふたりはしばらく花の海に浸っていた。


title:泡沫


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