ゼノブレ | ナノ


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――落ちた腕。数千年前の巨神と機神の戦いに於いて斬り落とされた機神の左手は、長い年月を経て風化し、今ではそのように呼ばれていた。拳を上に向けた状態で広がるそれの中心部に機神界人――マシーナと呼ばれる種族がひっそりと暮らす隠れ里があった。ハイエンターの皇女メリア・エンシェントは仲間たちと共に落ちた腕を訪れている。彼女らは魔物退治をマシーナから依頼されていた。今はその依頼を三分の二程度こなし、あちらこちらに色鮮やかな花が咲いている緑の大地に腰をおろしている。メリアの仲間は六人。神与の剣モナドを受け継いだ少年シュルク。シュルクの幼なじみでコロニー9防衛隊の新兵であるライン。コロニー6防衛隊の女性衛生兵カルナ。かつての戦いでモナドを振るったホムスの英雄ダンバン。今年の伝説の勇者に選ばれたノポン族のリキ。そして機械の身体に造り替えられた少女――シュルクとラインの幼なじみでありダンバンの実妹フィオルン――。皆、あたたかな心を持った優しき者でメリアはそんな彼らと出会えたことに深く感謝している。特に同性であるカルナ、フィオルンとは強く友情の糸で結ばれていた。そして皇女とはいえ年頃の少女であるメリアは、シュルクに淡い想いを抱いていた。――初めて抱いたその想いはひとり封じ込めているのだけれど。自らの手でそれを封じた痛みは、まだ覚えている。メリアはフィオルンと親しげに会話するシュルクを見て、首を横に振りそっとその場から離れた。首を振ったのはその痛みがほんの少しだけ、蘇ったから。いつの間にかリキとラインの姿もそこから消えていた。ダンバンは木陰で得物の手入れをしている。カルナはひとりで座り込み、考え事をしているようだった。

草のにおいと花の香りが混ざり合う。メリアは海がよく見える場所に立ち、思いを馳せる。アカモートを発ち、時は流れた。旅に出てどれだけの時間をシュルクたちと過ごしただろう。ひとりになることなんて、ほとんどなかった。だからとても新鮮だった。風が吹き抜ける。誰も隣にいない。風は直にメリアを冷たいそれで撫でては去っていく。ハイエンターの第一皇女メリア・エンシェントはもう一度、改めて自分の内に芽生えた想いに鍵をかける。彼は幸せになるべきだ、私ではなく、他の女性(ひと)と。それは間違いなく、フィオルンであるべきなのだと。そう心の中で呟く。痛みなど、もう感じなかった。手を取り合ったふたりの側にいて、時に手を貸してやれればいい。淡い想いは青い青い空に溶けていく。また風が吹く。とても爽やかな風が。メリアの銀髪がさらさらと音をたてて揺れた。もう、振り返ったりはしない――メリアは強くそう思った。そしてゆっくりと歩き出す。そろそろ休憩時間も終わるだろうから、大切な仲間たちのもとへ戻らないと。そう思い、メリアは大地を踏みしめる。その時だった。風とともに、ひとりの少女の姿が現れる。白い鎧。短い金髪。ペリドットのようなふたつの澄み切った瞳。

「…フィオルン?」

メリアは目の前にせまる少女の名を呼んだ。少しだけ、体が震えた。

「メリア!こんな所にいたのね」

探しちゃった、と微笑む少女は紛れもなくフィオルン本人だった。その身体の七割を機械部品によって造り替えられた少女。メリアは驚きを隠せない。フィオルンはシュルクと一緒にいたはずなのに、と。メリアがフィオルンに何故、と言葉を投げかけると彼女は大地に根をはる可憐な花のように笑んだ。メリアの姿が見えなくなったから、探しにきたのよ、と。わざわざ探しに来てくれたのかとメリアが言い、それから感謝の言葉を口にすればフィオルンは次々に花を咲かせる。私たちは友達でしょう?、と言うフィオルンにメリアは頷いた。ふたりの間には友情という名前の糸がある。恋敵なんかではなく、親友と呼べるほどの絆が。メリアがシュルクを想っていたのは事実だ、だが身を引いたのもまた事実で、本人たちがそれに気付かないでいるのもまた真実である。わざわざ口にする必要はない。メリアはそう分かっているからこそ柔らかく、優しく微笑う。メリアは差し伸ばされた手を握った。フィオルンが走り出す。メリアも足を早める。そんなふたりを見下ろす大空はどこまでも高く、そして真っ直ぐだった。


title:泡沫


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