ゼノブレ | ナノ


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私はシュルクを守ると誓った。身体を機械によって作り替えられた今、改めて誓う。守られるだけの女になるのは、昔から嫌だった。フェイスのユニットとして改造されたのは、確かに悲劇かもしれない。みんなとは違う時を過ごすことになるかもしれない、という強い不安も抱いている。けれど昔より力がついたのもまた事実。そしてこの力でシュルクのことを守りたい――願いは誓いに姿を変えた。私は大空を見上げる。鴎が一羽、飛んでいった。風に寄り添って、翼を広げて、青の彼方へと。
――ここは、落ちた腕。巨神と機神の戦いで斬り落とされた機神の左腕が、長い長い時を経て風化した場所。そして、シュルクと私が再会した、思い出の地。

私たちが落ちた腕を訪れている理由はふたつ。ひとつはマシーナたちの魔物討伐依頼を受けたため。もうひとつはそのマシーナの女医であるリナーダさんに私を診てもらうため。優秀な医者であるリナーダさんは忙しい。診てもらうのは明日となってしまった。シュルクは魔物討伐もその後に回そう、と言ってくれた。みんなもそれに同意してくれたので、私はひとり砂浜へと歩いていった。本当は魔物討伐も早いうちにやっておきたかったんだと思う。けれどもしも私の身体に異常があったら、と彼は考えてくれたようだった。私の胸がちりちり痛む。けれどそれは、誰にも言えない痛み。シュルク本人へはもちろん、お兄ちゃんにも、幼なじみのラインにも言えない。カルナやメリア、リキにだって。
――守りたい。そんな風に思っているけれど、本当は守られているんだと思う。魔物との戦いの中、シュルクは私が傷付けばすぐにライトヒールをかけてくれるし、荷物が重いときは軽々と持ってくれるし、私の顔色が優れないときは声をかけてくれるし。シュルクと一緒にいられるのは幸せだ。けれど自分の非力さを見せ付けられることもある。それを受け入れて、力をつける努力をしているつもりだけど、成果が出るのかは自分でもよくわからないのだ。私はため息をついた。どこまでも綺麗な世界にこぼれたため息は、ふわふわとしばらく漂って、それからすうっと溶ける。粉雪のように。私は顔を上げて青を見た。私のグリーンの瞳にうつるそれは切なくなる程に美しくて自分はいま、どんな表情をしているんだろう、だなんて思ってしまう。暗い顔かもしれない。私はぶんぶんと首を動かして暗雲を払いのける。

「シュルク……」

つぶやいたのは彼の名前。再会したあの日がちらつく。これからはずっと一緒だとシュルクは言う。けれど、私はこんな身体になってしまった。何が私とシュルクの仲を引き裂くかわからない。シュルク。私は彼を想い、頬を濡らす。ちりちりとした痛みは、ズキズキとしたものに変わる。振り払えなかった暗雲。立ち込めるそれに包まれて、私は足を止めてしまう。守る、だなんて。こんな弱い私が未来を背負うシュルクを守ることが出来るのだろうか。改めて誓ったそれが滲む。濡れた頬を拭きもせず、私は彼を思い続けた。いつまでも――ずっと、ずっと、一緒にいたい。それは、我が儘にもよく似て。


title:水葬


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