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「久しぶりだね、メリア。元気そうでよかったよ」

巨神の脹脛に位置する、主にホムスが暮らすコロニー――コロニー9。ここは街の外れにある、見晴らしの丘公園。少年にメリアと呼ばれた少女が微笑む。その少女はホムスではない。頭部に小さいけれど白い翼がある。本来ならば巨神上層部で暮らす古種族、ハイエンターだ。その証とも言える翼が小さいのは、彼女が禁忌とされるホムスとの混血だからだ。そして本来ならば、と言ったのはハイエンターの都、アカモートが崩壊してしまったためである。今やテレシアの都となってしまったアカモートを復興させるのは希望と呼ばれたメリア・エンシェントに託された使命であり、夢でもあった。テレシア化を免れた数少ないハイエンターたちは散り散りになってしまっている。ここコロニー9を新たな住処として選んだ者もいる。彼らは新たな幸せを手に入れようとしている。だがメリアはアカモートに戻りたかった。今はもういない父が、兄が愛したあの都市をよみがえらせたかった。その使命を果たすため、夢を実現させるため、少女は巨神界を回っている。ここコロニー9に来たのにはその理由もあった。もちろん嘗ての仲間たちに会いたいという気持ちもまた大きく、こうして少年――シュルクの前に立てることはとても嬉しいことでもあった。シュルクもいつの間にか笑んでいた。彼は変わらない。深い湖の色に似た瞳も、その真っ直ぐな眼差しも、太陽が放つ光の色をした髪も。全て。そのシュルクがメリアに座るように言う。少女は頷き、ベンチに腰を下ろした。目の前には彼らのふるさとが広がっている。そしてそれを取り囲む湖も見えた。

「皆は元気か?」

メリアが問いかける。皆、というのはシュルクの幼なじみであるライン、フィオルン。そしてフィオルンの実兄ダンバンのことを指している。彼らを思うメリアの眼差しは優しかった。それはとても穏やかで、柔らかい。シュルクはメリアを見て、うん、と頷いた。さらさらと金髪が踊った。

「フィオルン、元気にしてるよ」
「なら良かった」

シュルクがフィオルンに限定してそう言ったのは、フィオルンはあの旅の中で機械の身体にされていたからである。今はごく普通、ホムスの身体に戻ることが出来たフィオルンだが、やはり親友として気にかかるのだろう。実際元の姿に戻ったばかりの頃、フィオルンはあまり身体に慣れない様子でいた。シュルクもメリアもそれを知っているからこそ、今こうして彼女について語ったのである。今日は諸々の都合があり、メリアはシュルクとしか会えないが明後日になれば五人揃って話をすることが出来る。メリアは二週間ほどコロニー9へ滞在する予定だった。

「コロニー6にも行ったの?」

シュルクが尋ねてきた。視線をメリアの方に投げかけて。コロニー6とはここ以外で唯一残っているコロニーだ。あの街もまたコロニー9同様機神兵の襲撃を受け、ここ以上の犠牲が出た。崩壊し、もう未来が無いと思われていたコロニー6だが、とある少年が先頭に立って復興が進み、今ではたくさんの種族が暮らす街になった。少女はこくりと首を縦に振り、それから口を開く。

「カルナもジュジュも元気そうだった。シュルクたちに宜しく、と言っていたぞ」
「カルナにジュジュ――あれから、もう二年も経つんだね…」

先ほどのとある少年、というのはジュジュのことである。ジュジュはカルナの実の弟で、一時期シュルクたちと行動を共にしていたという。カルナというのは旅の仲間である女性だ。彼女が使いこなす治癒エーテルがなければ、今という未来はなかったかもしれない。それほど彼女には助けられてきた。その旅が終わりを迎え、新たな日々が流れるようになって二年。何もかもが元通りとはいえない。たくさんの悲しみがある旅路だった。今もまだ全ての悲しみが拭えた訳ではない。メリアの故郷は崩壊したままであるし、人々の心の中には機神兵に蹂躙された痛みが残されている。それでも自分たちは進んでいかねばならないのだ。立ち止まる訳にはいかない。これから先に待ち受ける何かを受け入れるためにも。

「いつか、七人で集まりたいね。僕に、メリアに――フィオルン、ライン、ダンバンさんに…カルナ、リキでさ」

シュルクが眩しい笑顔で言った。メリアは目を細めて頷く。人には都合というものがあるから、七人全員で集まるのは難しいかもしれない。けれどいつか集まって、いろいろな話がしたい――その思いは揺らぐことのない、強い感情だった。メリアはシュルクの方から視線を動かして、また眼下に広がる世界を見る。美しい、この巨神界。旅をして世界中を回ったからか、とても愛しく感じられる。シュルクとメリアはしばらくそこで過去を紡ぎ、今を感じ、未来を語った。そんな二人を見ているのは遥か上にあるものだけだった。


title:白々


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