ゼノブレ | ナノ


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輝く星の落ちる、美しくも静かな夜。巨神界上層部に広がるエルト海にメリアたちはいた。それは皇都で受けた依頼をこなすため。ハイエンターたちはシュルクとその仲間を信頼し、たくさんのことを依頼してきたのである。皇都からエルト海に出て四日が経過したが、まだまだそこに戻ることが出来ないほどには。
今夜もシウェラート灯台で身体を休めることになった。この灯台の灯りには不思議な力がある。それはモンスターの活発化を抑えることが出来る力。だから余所で身体を休めるより、ここで休んだ方が安全なのだ。ここにはハイエンターの灯台守もいる。目が多い、というのもまたここで身体を休める理由のひとつなのである。メリアはフィオルンとの話を終えると、ひとり草の上に立ち夜空を見上げた。フィオルンは実兄であるダンバンの方へと歩いていった。メリアとフィオルンの会話は友として語る、たわいない話で深刻だったりはしない。あの機械の身体になってから、フィオルンという少女は変わったのだろうか。メリアは少しそれが気になっていた。メリアやカルナ、そしてリキは今のフィオルンしか知らない。自分の知らない彼女をシュルク、ライン、ダンバンはよく知っているはずだ。だが聞けない。どうしてだか言葉が詰まって。それにシュルクたちはきっと「フィオルンはフィオルンだ」というに違いなかったし、メリアもそうだろうなとも思うのだ。だから聞かないままで
いるのが最善のことなのだろう。カルナもきっとそう考えているのだろうな、とメリアは思い、改めて空を見る。黒だけではなく、紫や深い青をのせた夜の空に、宝石箱をひっくり返したように星がばらまかれている。そして星の中には線を引きながら落ちていくものもたくさんあった。故郷である皇都から、あの離宮から、何度もみた空。それなのに見飽きることはない。綺麗、と心の中で呟く。もっとしっくりくる言葉もあるだろうと自分に言い聞かせるのだが、彼女が発したのは「綺麗」というものだけだった。

「メリアちゃん」

いつの間にかリキがメリアの真後ろまで来ていた。この旅の仲間の中で、唯一のハイエンターであるメリアと、唯一のノポンであるリキが会話を交わすのはそう珍しいことではなかった。リキが親しげに「メリアちゃん」と呼ぶのがそれを物語っている。メリアはそのように呼ばれるのが新鮮だったし、嫌ではなかった。初めてそう呼ばれたのがいつだったかは忘れてしまったが、その時も無礼だと突き返すことなど出来なかった。

「リキか――いつの間に来たんだ?」

メリアが微笑しながら問いかける。気配を消し、足音もたてずに歩み寄ってきた「今年の伝説の勇者」に。小さな勇者はいつもの満面の笑顔をして口を開く。

「ちょっと前だも。メリアちゃん、ずっとお空を見上げてたんだも。だからリキに気付かなかったんだも」

リキがぴょんぴょん跳ねながら答える。頭部の後ろ側にある二本の羽根のようなものが揺れ動いていた。メリアはそんなリキをそっと抱きかかえた。ノポン独特のふわふわ、もこもことした感触。メリアは時々こうやってリキを抱きかかえることがあるのだが、何も言わずにこうするのは初めてだった。リキも目を丸くしている。だがジタバタと暴れたり、メリアの腕の中から出ようとはしない。

「メリアちゃん…?」

リキが彼女の名を呟くように呼んだ。何故だか、語尾が上がっている。メリアは一度瞳を閉じ、それから開き、また星空を見た。星は今も尚、滑るように落ちている。

「リキ、綺麗だな――ここから見える空は」

メリアが言う。するとリキも素直に綺麗だも、と口にした。時間がとてもゆったりと、穏やかに流れゆく。それに優しく抱きしめられたメリアとリキは長いことそうしていた。シュルクが二人の名を呼んで、こちらへ来るようにと言うまで。メリアの銀髪と服の裾、リキのふわふわとした体毛が夜風に弄ばれていた。


title:空想アリア


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