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final fantasy tactics

また彼の夢を見た。ひとつ溜め息を吐いて、私は身体を起こす。わかっている。もう、彼がいないということは、痛いほど。私は窓に寄ってカーテンを少しだけ開けて、外を見る。まだ薄暗い世界がそこには広がっていて、もう一度溜め息を吐いた。まだ、忘れられない。いや、忘れることなんて出来ない。心から愛したあの人のことを、忘れるなんて、永遠に。未だに、この高い空の下のどこかに彼がいるような気がするほどに――。

長く過酷な戦いの日々が終わり、私は畏国から遠く離れた地で生活をしていた。死都ミュロンドでの戦いは私にとって痛みばかりを与え、その後仲間たちとも散り散りになってしまった。この国で奇跡的に再会することが出来たのは時魔道士の少女と、ナイトの青年のふたり。彼女と彼は私たちのリーダー格であったラムザ・ベオルブのアカデミー時代の学友で、彼が異端者の烙印を押されてからも彼とその仲間を支え続けた。少女の方はこの街で生活をしており、少年の方は隣町で生活をしている。ふたりは時々、私に会いに来てくれる。逆に私が会いに行くこともあった。ラムザやアグリアス、ムスタディオといった他の仲間たちにも会いたいと思うのだが、生死すらわからない。だが、信じている。どこか遠い国で、街で、彼らが生きているということを。信じると同時に、願っているのだ。かつて剣を向けた自分のことを受け入れてくれた彼らの生存を。

私は身支度を整え、簡単な朝食をとってから、家を出た。少し空は明るくなっていた。街には人々の姿がある。皆、明るい顔をしている。こんなに沢山の人がいるのに、ずっとずっと会いたいと願っている彼は居ない、だなんて。心が萎んでいくのを感じた。私は思っていた以上に彼を愛していたらしい、そう気付いた時、既に私たちは道を違えていた。弟は死の間際に全てを知ったのだろう、片割れを失った私を利用し続けた父がすべての元凶であったということも。

「――」

空を仰いだ。胸の傷跡はどれだけの時が経っても消えることがない。それだけではなく、時折ズキズキと痛む。彼の名を心の中で呟く。クレティアン。ガリランドの王立士官アカデミーを主席で卒業し、迷うことなく神殿騎士団になった彼。敬虔なグレバドス教信者だったクレティアンは毎日何回も神に祈りを捧げていた。その姿を思い出すと、傷が痛むのだ。彼は優しかった。いつだって私のことを支えてくれた。花嫁と呼ばれるものになれるのならば、彼のそれになりたいとまで思った。彼もまた私のことを大切にしてくれていた。クレティアンが誕生日にくれたシャンタージュはあれ以来使うことが出来ない。無くなったら私と彼の間にあるものが消えてしまうような、そんな気がして。

彼がこの国を乱し、混沌を呼ぶものに従う存在になってしまっても、私は彼への想いを捨て去る事は出来なかった。だから、貿易都市ドーターで対峙した時こう叫んだのだろう。「あなたが相手でも手加減はしない」と。本当は戻ってきて欲しかった。胸の中に燃える想いをひた隠ししながら、私は彼と戦った。戦わないわけにはいかなかった。利用され、裏切られ、死んでいった弟のためにも。そのためには恋心も封印して剣を向けなければならなかったのだ。そして彼が死都ミュロンドで息絶えた時――私は涙を流していた。本当に、本当に、好きだった。頬を流れていくそれを拭うことも出来なかった。死の間際、クレティアンは私に小さな笑みを浮かべていた。「さようなら」の言葉も喉につかえて出てこなかった私に。傷付けあう運命を変えることが出来たなら、私たちは今も一緒にいることが出来たのかもしれない。けれど――現実は残酷だ。あの頃の彼はいなかったし、あの頃の私もいなかったから。先に進むラムザの後ろで、私は一度だけ振り返って地へと伏す
彼を見た。

「――クレティアン……」

涙で彼の姿が滲む。どうして、どうして、こんなことになってしまったのだろう?一緒に生きていた日々はもう遠い。


先程まで私をとらえていた夢もその頃のものだった。空から視線を逸らして、私は街を歩いた。街外れの広場に行くと、そこには時魔道士の少女の姿があった。少女は私に気付いて微笑んでくる。彼女は私がラムザの一行に加わった時、一番に声をかけてきてくれた少女である。私の父は神殿騎士団の団長だ、私とラムザ一行は剣を向け戦ったこともある。彼女はそんな私にも優しくしてくれた。ぼろぼろになって、傷だらけの私にも。

「メリアドールさん、おはようございます」
「……おはよう。早いのね」

少女はまた微笑った。

「何かあったんですか?」
「え?」

真剣な目で問いかけてくる少女に私は首を傾げた。青空を白い鳩が風を切って数羽飛んでいく。

「……目が、赤いから」

少女が静かに答えるので、私も少しだけ笑い、「そうね」と言った。少女には彼の話を以前からしている。彼女もまた戦いの途中で恋人を失ったという。少しだけ似通った部分があったから、私たちはまた会うことが出来たのだろうか。思い出とは優しいものばかりではない。彼女も私もわかっていた。けれども忘れたくないと強く願うのは、優しさもまた確かに存在している、というのも事実であるから。夢の中で生きていけないのは、現実の中にある優しさ抜きで人は生きられないからなのかもしれない。私と少女は肩を並べて世界を見据える。吹き抜けていく風。揺れる木々。芳しい香りを放つ花々。私たちは歩いていかなくてはならない。それが生き残った私たちのやるべきことなのだから。愛する人を思い続けながら――何処までも。


title:空想アリア
twitterでのリクエストは「花嫁/空/傷跡でクレメリ」でした!

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