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final fantasy tactics

大地を覆い尽くしていた雪が溶け、花の香る春になる。あれからどれだけの日を重ねたことだろうか。そんな事を思いつつ、彼女は静かに歩いていた。踏みしめる大地には萌え出た緑。空には鳥が舞い、それは時折美しい歌を綴る。彼女は春が好きだった。穏やかな時が流れていく春が。彼女――メリアドールは空を仰ぐ。今はもう会えぬ人の横顔を想って。


畏国ではない小国で、メリアドールはひっそりと生活をしていた。あの戦いでラムザやアグリアスなどとも離れ離れになってしまった。だが少し前に、士官学校時代にラムザと机を並べていた白魔道士の少女と偶然再会し、それからは彼女と静かな生活を送っている。町の近辺に時々現れるモンスターを退治したり、ちょっとした依頼をこなしたりしながら。いつかラムザたちとも再会出来る日が来ることを信じている。それは白魔道士の少女もまた同じだった。

メリアドールはミュロンド・グレバドス教会所属の神殿騎士であった。父は神殿騎士団団長で、ふたつ年下の弟も彼女同様神殿騎士団に所属していた。しかし、メリアドールは裏切られた。父に、仲間に、神に。父ヴォルマルフは闇の血族「ルカヴィ」であったのだ。ヴォルマルフは血塗られた聖天使を復活させ、ルカヴィが自由に世界を行き来できるようにするために暗躍していたのだ。実の娘であるメリアドールを、実の息子であるイズルードを利用して。メリアドールは戦った。父の正体を暴くために。死んでいった最愛の弟のために。自らを仲間としてくれた者たちのために。彼女の剣に迷いはなかった――かつての「仲間」である者たちとの戦いは辛く、苦しく、悲しいものであったけれども。

いつものようにフードを被り、メリアドールは胸の中でとある人物の名を呟いた。クレティアン・ドロワ。王立士官アカデミーを主席で卒業後、神殿騎士団に入った魔道士。彼は敬虔なグレバドス教信者だった。メリアドールがイズルードたちとミュロンドで生活していた頃、毎日何回も祈りを捧げている彼の姿をよく見かけたものだ。汚れない白いローブを身にまとい、祈るクレティアン。メリアドールは彼から様々なことを教わった。神殿騎士団メンバーの中でも歳が近かったから、というのもあるだろう。メリアドールが神殿騎士であることをやめ、ラムザの一行に加わった頃。一度だけ、再会したことがある。貿易都市ドーターでのことだ。メリアドールはあの時、叫んだ。罪の償いをしてもらう、と。それは彼が彼女にとって、大切な存在であったから。これ以上の罪を重ねて欲しくないという、メリアドールの願い。しかし、クレティアンとメリアドールの思いは結局交わることはなかった。彼はもう変わってしまっていたのだ、かつてのただ優しかった彼はいないのだ。あの日の夜は辛くて眠ることも出来なかった。真実が知りたければ自分自身の目で確かめろというクレティアンが去り際に言った言葉が、冷たい世界で響きわたっていた。

「……」

メリアドールは白い石に花を手向ける。先程、花売りから買ったものだ。白魔道士の少女も彼女の後ろに立ち、複雑な顔でそれに目を向けている。真実。メリアドールはそれを見た。ルカヴィへと変わっていく父の姿を。あの地で散っていったローファル、バルク、そしてクレティアン。その深い悲しみの記憶は消えることはないだろう、メリアドール自身も消してはならないものだと気付いている。故郷はいま、どんな色をしているのだろう?ミュロンドは、ラムザと戦ったベルベニアは、クレティアンと思いをぶつけたドーターは。幾ら思っても、もうそれを見ることは叶わない。ならばせめて記憶の中の景色の色彩を忘れずにいよう。優しかった頃のヴォルマルフがくれた愛も、血を分けた存在イズルードとの間にあった愛も、そして脆く儚い愛を刻んだクレティアンとのそれも、抱きしめて生きていこうと。メリアドールは跪く。祈り、願い、誓う。大地には散りゆく花びらがはらはらと落ち、空には白き雲が浮かび、穏やかな風は彼女の感情を運んでいく。


title:エバーラスティングブルー

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