dod3 | ナノ


drag-on dragoon 3

雨が降っている。止む気配はなく、それは逆に強まっているようだった。大地を叩き付けるそれはまるで全てを呪い責め立てているようにも思えた。私は今、ひとりで窓辺に立ちべっとりとした鈍色に覆われる世界を見ている。

――こんな世界早く終わってしまえばいい。

そんな事を願ってしまう自分が、心の片隅で蹲っている。この世界も、自分も、使徒も、血を分けた姉妹さえもどうでもよくなりつつあった。少しずつ自分という存在がばらばらになっていくかのような感覚。私は弱い。だから、多分、壊れる日が来るのだろう。それはそれほど遠い未来ではなくて、足音が耳に届くほど近くて。私はそっと窓を開けた。当たり前のように雨粒が私の肌などに当たる。衣服には染みが出来る。冷たい雨。その冷たさは世界の冷酷さを表しているかのようだ。そんな世界のどこを愛せばいいのか、わからない。少なくとも私には。私は窓を閉めて、カーテンをひいた。暗くなる一室。雨音ばかりが響いていた。


「フォウちゃん!」
「……トウ姉様」

沈黙の雨から数日経過し、山の国にウタウタイ姉妹の三女であるトウ姉様が使徒と共にやってきた。旅の途中で立ち寄ってくれたらしい。トウ姉様は物思いに耽っていた私を現実へと引き戻してくれた。今日は晴天。何時ぞやの雨を忘れさせてくれるかのような晴天。トウ姉様はモンスターを狩って来て、それを調理し、私に振る舞ってくれた。本来ならばお客様であるトウ姉様に私がなにかしらの料理をするべきなのだろうけど。トウ姉様は姉妹の中で最も料理好きだから、とても楽しそうに作っていた。だから私はそういった言葉を口にはしなかった。心の広いトウ姉様のことだから気を悪くすることは無いだろうけども。トウ姉様の手伝いをしている間、私の使徒とトウ姉様の使徒が何やら会話を交わしていた。ここまでその内容は届かない。五感の発達したワン姉様であったらすべての言葉を聞き取って理解することが出来るだろうけれど。そのワン姉様は教会都市にいる。教会都市とここ山の国はとても離れていて、随分と長い間彼女に会っていない。それを口にするとトウ姉様は花のように笑った。

「ワンねえちゃんは元気だよ。わたし、子どもたちを教会都市に預けてもらいに行ったんだけど、ワンねえちゃんはいつも通りだったもの」

トウ姉様は砂の国で孤児を集めて一緒に生活をしている。本当に優しい人だ。私には到底手に入らないものを持っている。少しだけ胸に黒いものが芽生えた。弱い私はそれを引き抜く事が出来ない。そんな私の表情の変化にトウ姉様は気付かず、そのまま手を動かし続けた。大きな肉を切って、塩で味をつけている。そういえば森の国のスリイ姉様は塩が好きだった。スリイ姉様は今日も人形作りに勤しんでいるに違いない。


トウ姉様は三日ほど山の国に滞在し、それからここを離れた。彼女は使徒と共に世界中を巡るのだという。トウ姉様と使徒は相思相愛で、仲睦まじい姿をこれでもかと見せつけてくれる。私と使徒デカートとの関係とは全く違う。トウ姉様たちはすべてを受け入れて、互いに愛し合っているけれど、私たちは違う。別に羨ましいわけではない。使徒とウタヒメの関係。それはとても複雑なものなのだ。幸せそうなトウ姉様たちを見たからだろうか、私の胸は更に痛んだ。数日前の歪んだ願いがふたたび膨らんでいく。そうなるともう自分でもセーブができなくなる。こんな世界、大嫌いだ。みんなみんな、消えてしまえばいいのに。血に塗れた世界だ、そしてこれからもっと多くの血が流れていくかもしれないのだ。いや、かもしれない、などという曖昧なものではない。血が流れていくのは変えられない未来。大地の緑も赤く染まって、空の青は褪せていって。雨でさえ透明感を失って。傷だらけの私の心が晴れることはない。蹲っていたはずのそれはいつの間にか立ち上がっていた。そして、歩き出そうとしている。その道の先に光など無いとわかっていながら。


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