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drag-on dragoon 3

闇が迫っている。青かった空が茜色に染まりつつあった。黒い翼の鳥が数羽飛んで行く。彼らが羽ばたく音が夕刻の空に響き渡った。もうすぐ夜になる。僅かで、故に儚い時間帯。この国を治めている少女――フォウはそういった時間に抱かれて空を見上げる。彼女は「ウタウタイ」と呼ばれる特殊な能力者であった。ウタウタイは領主たちの圧政と終わりが見えぬ戦乱に塗れていた理不尽な世界で苦しんでいた人々を救った救世主的な存在で、民は彼女たちをウタヒメと呼び崇めている。彼女たちには名前がなく、皆が数字で呼ばれていた。そしてそんな彼女たちの傍らには「使徒」と呼ばれる男性がいる。ウタのチカラの代償で、彼女たちの性欲は普通の人間とは桁違い。使徒はその昂ぶりを鎮める為に存在しているのである。だが、フォウの場合は抑圧的な性格から性行為に及ぶことが出来ずにおり、ウタウタイで唯一の処女であった。したがって、彼女と使徒デカートとの間に肉体関係は無い。ウタウタイの持つ桁違いの性欲から考えれば、それは異常とも言える。そして今、彼女の側に彼の存在はない。フォウはひとり外に出て空を見つめ続けている。青から次第に赤へと変化し、その後黒に落ちる空を見ていると少しだけ泣きたくなるのは何故だろう?フォウは胸の中で問う。しかし答えが返ってくることはない。それも彼女はわかっていた。この残酷な世界で生きるすべての者に問いかけても正解を口にできる者は恐らく居ないであろう、ということも。

フォウは夕食をとってから自室へと戻った。彼女の部屋の前で、使徒デカートは護衛にあたる。それだけであった。天地がひっくり返ってもフォウが彼をベッドに誘うことはない。がらんとした部屋。ひとりで眠るには少し大きすぎるベッド。フォウはそこに入る前に、椅子に腰かけて姉妹から来た手紙に視線を走らせる。一通目は次女ワンからの手紙であった。ワンは教会の宗主で、この国から遠く離れた教会都市にいる。彼女のきっちりとした字は近日中に教会都市へ来て欲しい、といったメッセージとなっていた。返事は数日前に飛ばしている。あと二、三日後には山の国を発つ必要があった。フォウは飛空艇を有しているのであまり苦労せずその地へ赴くことが出来るのだが。次に開いた手紙は三女トウからのものだ。トウと彼女の使徒は相思相愛の仲で、見ている者たちが赤面してしまうほど仲睦まじい姿を見せる。彼女は過酷な環境下にある砂の国で戦災孤児などを集めて面倒を見ているという。姉妹で最も優しい性格をしているトウは母性本能の高い女性と言えるだろう。彼女からの手紙は主に近況報告で、あまり堅苦しい文面で無いのでフォウは肩の力を抜いて読むことが出来た。返事は明日にでも書くことにしよう、フォウはそう決めて便箋を封筒にしまった。最後は妹ファイブからの手紙である。フォウとファイブは性格の違いからだろう、昔から諍いが絶えなかった。ウタのチカラを有する存在が抱えることになる身体の異常発達。フォウの場合はそれが爪で、ファイブは乳房であった。スタイルに自信が持てないフォウに、末っ子のファイブはいちいち豊かな胸を押し付けてからかってばかりいた。大体の場合フォウの方が怒りを爆発させて嫌な目にあうのだが。喧嘩に発展することも多かった。それを仲裁するのは決まってトウだった。そんなファイブからの手紙はあまり内容が無い。伝説のお肉が欲しいとか、高価で綺麗なドレスを購入したとか、そういった文の羅列。すぐ上の姉であるフォウが返事を出さないこともしばしばであった。今回もまだ返事は書いていない。数日後に国を出て教会都市へ行くことになっているので、今回も返事は書かないことになりそうだ。それでもファイブは定期的に伝書鳩を飛ばす。ちなみに森の国を治めるウタウタイ、スリイからの手紙はほとんど来たことがない。四女であるスリイは一番の変わり者で、人形作りに没頭している。彼女の使徒から手紙が来ることはあるが、フォウは彼の手紙をあまり真面目に読むことはなかった。大抵「ジョイがどうのこうの」という手紙であるから仕方ないと言えば仕方ないのだが。

手紙を丁寧にしまって、フォウはベッドに入る。冷たいシーツと布団も、時間が経つにつれあたたかなものになっていく。壁にかけられた時計は日付が変わったことを指し示している。どうやらかなりの時間をかけて手紙を読んでいたらしかった。明日もやることがたくさんある。トウへの返事を書くこともそうだが、教会都市へ行く準備や片付けなくてはならない書類も、少ないとは言えない。火照る体を鎮める余裕もなく、彼女は眠りの国に足を踏み入れた。フォウにとってはその国だけが安らげる空間なのかもしれなかった。劣等感を胸に秘め、血を分けた姉妹のことも、使徒のことも、そして自分自身のことすらも好きになれない彼女にとっては。夢の中ではどんな自分にもなれた。現実世界では絶対になれない、自分のことを好きと言える自分に。そのまま微睡みの中にいたい、という願いは目覚めと同時に砕かれる。高い場所から硝子玉を落とすかのように。そんな少女の寝顔は驚くほどに安らかなものだった。


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