dod3 | ナノ


drag-on dragoon 3

ゾフィエルが地に伏した。ゼロ姉様の竜は空へと舞い上がり、ばさばさと羽音を立てている。ゼロ姉様が私を見ている。私もまたゼロ姉様を見ている。薄紅色の瞳で。翠色の瞳で。ゼロ姉様は私に剣を向けた。私もぎゅっと拳を握る。第二ラウンドが始まろうとしていた。相手が崩れ落ちるまで続く、醜い戦いが――。

私はゼロ姉様からの攻撃をかわしつつ、叫ぶ。自分で自分が何を言っているのかもわからない状態であったけれど。私は「ゼロ姉様」と繰り返す。しつこいほどに長女の名を呼ぶ。私たちは血を分けた姉妹で。妹である私は昔からゼロ姉様の真似ばかりをしてきた。強く気高い彼女に仄かな憧れを抱きつつ、何もかも負けている自分のことを酷く嫌っていた。私はワン姉様ほど賢くもない。トウ姉様のように素直にもなれない。スリイ姉様のように綺麗な顔をしているわけでもない。ファイブのようにスタイルが良いわけでもない。――なにもないのだ、なにも。ウタのチカラの代償として、異常なスピードで伸びる爪も本当に本当に嫌だった。そんな爪を噛み切ってしまう癖を直すのも大変だった。私は利き手に装着した格闘装具でゼロ姉様に殴りかかる。私と彼女は痛みを堪える。白い肌に赤が走る。血が滲む。空に視線を僅かに向ければ、苛立つほど青いそれが私たちを見下ろしていた。いっそ雪でも降ればいいのに、などと自分でもよくわからない思いが芽生えた。雪が降れば大地が白に染まって、そこに落ちる血が綺麗に見えるだろう、と、そんな捻くれたことを。

ゼロ姉様は軽やかに私の攻撃を避ける。一方、私は彼女の攻撃を避け切れず倒れこんだ。腹のあたりに深い傷を負ってしまった。こぼれ溢れる鮮血が衣服の色を変えていく。私はなんとか立ち上がり、姉の姿を見る。涼しい顔をしていた。薄紅色のふたつの瞳は宝石のようだ。「全てのウタウタイを殺す」という強すぎる思いを宿しているはずなのに、冷静なまま。そんなゼロ姉様を見るということは、自分との差を直視するということ。嫌になった。昔からそうだったけれど、今日は特に。私は喚きながら攻撃を繰り返す。半分かわされた、といったところだろうか。流石のゼロ姉様も眉を顰めている。少しだけ心が沸き立つのを感じた。彼女の表情を変えたのは私なのだと。戦っている間はおそらく、私のことを考えてくれている。この愚かな世界で。唇に笑みを浮かべる。僅かな笑みを。その時だった、ゼロ姉様がもう一度私に切りかかってきたのは。

「…ッ!!」

走る激痛。間を開けずにもう一度痛みが私を襲う。深々と刺さったゼロ姉様の剣。その剣はドラゴンの体組織から作られたもの。私たちウタウタイは人間とは比べ物にならないほどの生命力を持っている。けれどドラゴンによって作られた「それ」はウタウタイを殺すことのできる、特別な剣。黒い死が迫っている。もう目の前にいるゼロ姉様の顔もわからない。恐怖が私を包み込む。そんな私をゼロ姉様は冷たい目で見て、竜に何かを告げる。冷たい声だった。竜は私を見下した。鋭利な牙が、爪が、私の体を貫くのは――数秒後。私はもう叫ぶことすら出来なかった。暗がりの中でよみがえってきたのは、穏やかな日々を生きてきたあの日々。そして私の目の前で死んでいったゾフィエルの姿。その空間には雪が降り頻っている。そこに落ちる赤。私は醜いものが大嫌いだった。だから、自分のことも大嫌いだった。私は、私は――どうして生まれてきたのだろう?問いかけの途中で意識が途絶えた。


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