dod3 | ナノ


drag-on dragoon 3

薄暗く生暖かい奇妙な空間を彷徨っている。彼女は出口をずっと探しているが、見つからない。彼女の海にも空にも似た青い瞳の光はもう消えてしまいそうだった。まるで酷く短くなった蝋燭のように儚い。その瞳と同じ色をした柔らかな髪を撫でる風も吹かない。彼女の心は泣いていた。表情は凍りついたままで。彼女――トウは求めている。愛する人の手を。いつか見つかるのだと強く願いながら。

トウはウタウタイである。ウタウタイとは、声によって魔力をコントロールすることが出来る特殊な能力者のことを指し、全部で六人いる。その全てが女性であり姉妹である。彼女たちはウタヒメとも呼ばれ、トウはその姉妹の三女であった。そのトウは、ウタのチカラに飲み込まれてしまった。強大なるチカラ。かつては明るく、姉妹のムードメーカー的存在であったトウ。下から二番目の妹、フォウからは姉妹の中で最も優しい存在であるとも言われた彼女。今は幼子のようになってしまっている。そんな彼女が薄暗い空間で求めている存在――それが使途セントであった。セントとトウは相思相愛の仲だった。彼女の精神が壊れるまでは。愛情表現の素直だったトウは、どんな場所であってもセントと仲睦まじく接しあっていた。しかし今は違う。ウタのチカラに耐えられず壊れてしまったトウ。そのトウを悲しげに、それでいて愛おしそうに守り支えているセント。愛はそこに存在している。けれどかつてのような大輪の花は咲かない。頑なな蕾がそこにはある。今日もまたトウは迷宮を裸足で彷徨うのだ。――セントという光を求めて。


今から数ヶ月前。まだ彼女があどけない笑顔を見せていた頃。トウが治める砂の国に、妹であるフォウとその使途デカートが訪れた。久し振りに会う妹にトウは腕をふるい、たくさんの料理を作った。フォウは喜び、かつて姉妹たちが共に生きていた日々を懐かしそうに語った。トウも様々なことを口にした。そんなふたりを使途ふたりは優しい目で見つめていた。砂の国の神殿は地下にあり、外が高温であってもそこはひんやりと涼しい。その為食べ物も保つし、何より過ごしやすい。よく出来ているものだ、とデカートも言う。妹とその使途がいても、セントとトウはいつも通りだった。愛の言葉を相手が綴れば、それに愛の台詞を返す。フォウはというともうとっくに慣れている様子だった。デカートはそうでもなかったが。
夜。トウはフォウとデカートに部屋を与えると、自室へと歩いていった。セントと一緒に過ごす部屋。彼との時間は何よりも大切で、愛しい。セントがすぐそばにいるということが嬉しくて、トウは可愛らしい声で言葉を紡ぐのだ。

「あのね、セント。わたしは世界で一番幸せだよ!だって…セントが一緒にいてくれるから!」


セントは眠りについたトウの顔を見つめつつ、数ヶ月前彼女が発した言葉を胸の中で繰り返す。今の彼女もまた幸せだと思ってくれているのだろうか?自分が側にいるということは変わらない。変わってしまったのはトウ、彼女である。彼女は壊れ崩れてしまった。綺麗な瞳は自分のことを映し出すが、見てはいない――セントはふたたびトウを見る。彼女の無邪気な姿をもっと見ていたかった。彼女の優しい手と自分の手を繋ぎあわせていたかった。これほどまでに愛しているというのに、現実は非情である。彼女は恐らく、自分の知らぬ場所で自分を求めて彷徨い歩いているのだろう――セントは彼女の頬に触れた。白く滑らかな肌はあたたかい。

「……トウ」

ふたりきりの時はそう呼んで、とトウはセントに繰り返し言っていた。それをセントは守りぬいてきた。これまでも、そして、これからも。自分の時間が終わってしまう時まで。カチコチと時計の針の音が響く。トウと一緒に居られれば幸せだ、とセントも思っている。けれども彼女の言葉を求めてしまう。あの優しかった日々はもう戻らないとわかっているのに。彼の頬を生ぬるいものが伝う。気付けばトウの頬にも同じそれが伝っていて、セントは押し潰されそうな心を抱いたまま、愛しいヒメの涙を拭った。もう――こんな時間だ。


[ back to top ]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -