覚醒/絶望の未来編 | ナノ


fire emblem awakening

「うーん、やっぱりここはこうかな〜?もう一回やってみよう!えーっと、正義の天馬騎士シンシア!いざ参るっ!」
「……何やってんのよ、シンシア」

相変わらず暑苦しいわね、などと言いながらセレナが現れた。長い黒髪を風に靡かせながら。突然の声に、シンシアが奇妙な高い声を上げた。ここはイーリス城の中庭。たくさんの花が咲き乱れる、美しい場所でセレナのお気に入りの場所でもある。戦いが終わって数か月。聖王となったルキナの評判は上々で、シンシアとセレナは新たに編成された天馬騎士団のメンバーとして忙しくも充実した日々を送っている。

「び、びっくりしたー!せ、セレナ!いつから此処に!?」

シンシアが目を丸くしている。頬に触れ、髪と戯れる風は穏やかで優しい。季節は春だった。あの頃は――絶望の中、必死になって抵抗し戦っていた頃は、こんな日々が訪れるなど想像も出来なかった。邪竜ギムレーが復活し、悪しきその竜が世界を滅そうとしていたあの頃は。実際、いつも明るく前向きなシンシアでさえ心が折れかけていた。そしてセレナは身を挺して聖なる血を受け継ぐルキナを生かそうとしていた。仲間であるジェロームとロランと共に。それを思い出して、脳裏に仲間たちの姿を描く。皆、元気だろうか。無理はしていないだろうか。平和になり数は激減したとはいえ、未だに屍兵が現れることもある。賊もいなくなったわけではない。だからこそセレナとシンシアは、平和な時代が訪れた今も、守るために戦う騎士の道を選んだのである。幼馴染みで、戦友でもあるアズールたち。彼らも新たな道を歩んでいる。近々、会えたらいい。あの頃は交わせなかった冗談や軽口も、今ならたくさん口にできるだろうから。セレナはそんな風に思った。シンシアには「今来たところよ」と発しながら。セレナとシンシアは中央に置かれたベンチに腰を下ろした。座って、空を仰ぐ。ふたりの瞳に青が映る。それは哀しみの青ではなく、静かで自由な青。

「あんた、いつまでそういうの続けるつもり?」

セレナが言えば、シンシアは眉をつり上げる。何よ、と少々強い言葉を口にしつつ。

「でもまぁ、シンシアらしいとは思うわ。あたしはやりたくないけど」
「もー!いっつも一言多いんだから!……でもさ、セレナ」
「何よ?」

遠くで、鳥が鳴いている。

「セレナがあたしと同じ天馬騎士になってくれて、よかったな〜って最近よく思うんだ」
「えっ?」
「だって、やっぱりひとりじゃ寂しいし……。それにね、あの辛い戦いを共にしたセレナがそばにいてくれる、っていうのが嬉しいんだ。あとルキナもあたしひとりじゃ心細いだろうし」
「シンシア……」

シンシアが笑う。とても柔らかな笑み。思わず、セレナも微笑んでしまう。庭の花々も同じように笑っている。花の名前はわからないけれど、なぜかとても清々しい気持ちになって。

「だからね、これからもよろしく!」
「……変なまとめ方」
「えーっ、そこは『こちらこそよろしく』とかじゃないのー!?」

シンシアが立ち上がって言う。それを聞いたセレナが彼女に座るよう言い、それから「わかったわよ」と言った。セレナとシンシアは再び隣り合って座る。平和だ――もう、あんなに辛い思いをしなくていい。本当は大好きな両親も此処にいてほしい。けれども、それは叶わぬ願い。彼らの犠牲のもとに成り立っているこの「平和」を、シンシアたちはずっと守っていかなくてはならない。それが彼らへの供養となり、彼らの願いでもあるのだ。絶望の未来しかなかったあの時代で、散っていった者たちのためにも、精一杯生きていこう――そんな誓いをたてる。空を切り裂くように飛ぶ白い鳩。セレナが言う。鳩は平和の象徴なのだ、と。シンシアが黙って頷いた。それからふたりはその鳩を目で追う。追えなくなるまでそうしていた。中庭に咲き乱れている花々の香りを纏って翔る鳥を。
しばらくの間、シンシアとセレナはそうしていた。時々言葉を交わしながら。たまにふたりの表情が複雑なものとなるのは今はもういない大切な人のことを頭の中で思い描いているからである。セレナの母であるティアモと、シンシアの母であるスミアは親友であった。そしてその子供であるセレナとシンシアも――そのような関係になるのかもしれない。いまは「友」であり「仲間」である二人の関係が、より良い、より強いきずなで結ばれる日はそう遠くないのかもしれなかった。


title:空想アリア

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