覚醒/絶望の未来編 | ナノ


fire emblem awakening

僕は彼女に斃されるべき存在だ。
彼女の愛する人々の命を奪い、彼女の愛する世界を滅ぼそうとしている、そんな僕は。

罪を重ねた僕の手は真っ赤に染まっている。僕のせいでたくさんの犠牲が出た。何の罪もない一般人から、戦うことを仕事とする者たちまで。このままではもっとたくさんの人の命が散る。そして世界は滅してしまう。邪悪なるものの奥底で、僕は鎖に繋がれている。そこはとても暗く、一筋の光すら無い。ここから出られないということはずっと前から気付いている。僕は自分が斃されることを望むことぐらいしか出来ない。いや、完全に自我が消えてしまったらそれすら出来ないだろう――。僕は必死になってもがいた。抵抗した。けれども「僕」は指一本自由に動かせない。もう誰も傷付けたくないのに。もうこれ以上罪を重ねたくないのに――。そう思った時のことだった。彼女たちを救うために別の時代から彼らがやってきたのだ――クロムたちが。今度こそ、僕は彼を殺すわけにはいかない。僕はまたもがく。じゃらじゃらと鎖が鳴る。戦いが始まった。

彼女の剣が僕を貫く。彼女は泣きそうな目をしていた。たった今、僕はまた尊い命を奪った――彼女にとって大切な存在を。それにこの城へ誰も来ないところを見ると、恐らく僕が差し向けた者の手によって、別行動をしていた彼女の仲間の命も奪われたのだろう。僕は膝をついた。そして僕はクロムたちを元の世界へと飛ばす。そうしなければ「僕」は再び彼らを襲い、また殺してしまうだろうから。

残された彼女が僕を見ている。僕もまた彼女を見た。――ルキナ。優しくも逞しく、それでいて真っ直ぐな少女。彼女とこうやって話が出来るのは恐らくこれが最後になる。僕は必死になって邪なる自分を抑え込む。彼女は僕に言う。あなたは普通の人間で、邪竜に操られているだけなのではないかと。今話をしている「あなた」を救う手はないのかと。彼女は本当に優しい。父親にも、母親にもよく似ている。彼女にならば――この国を、この世界を託せる。皆はそう思い、そして散っていったのだろう。僕は首を横に振った。僕は生まれた時から邪竜ギムレーであると。僕を救う手などどこにもないのだと。僕はファウダーの子として生まれ、ギムレーの血を強く引いている。僕は手の甲にある邪痕を見た。それからルキナを見る。彼女の瞳には聖痕。――僕らは相容れぬ存在なのだ。だからこそ、君の手で、全てを終わらせてほしい。ルキナはその瞳で僕の邪痕を見た。すべてを察したその瞳で。――君に斃されるときを心から待ち望む。僕はそれを告げてイーリス城から消えた。

別れ際、ルキナの瞳から一筋の雫が頬を伝って落ちるのが見えた。
それはあまりにも綺麗で――残酷すぎるほどに綺麗で。
きっと彼女の瞳に、嘗てのような美しい世界が映る日が来る。
それは、そう遠いものではないだろう。


title:泡沫

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