覚醒/絶望の未来編 | ナノ


fire emblem awakening

――この私が言える台詞ではない、そう理解した上で私は言います。あなたを殺したくない。あの時のように、この手であなたを殺めたくない――異界のクロムさん。あなたにはやるべき事がある。ここではない世界を――異界を救うために、戦わなくてはならない。そんなあなたの命を奪うわけにはいかないのです。だから私は、あなたたちを元の世界に戻しました。この場に残ったのはこの世界のルキナ、ただひとり。彼女の大切な仲間を、私は彼女の目の前で殺しました。こうやってあなたと話せるのは、今この僅かな時間だけ。だから私はあなたに託します。希望というあたたかな光に包まれた未来を――。

私がこの世界のクロムさんと出会ったのは、もう随分と前のこと。行き倒れていた私を助けてくれたクロムさん。そんなクロムさんをも、私は手にかけました。私は自分の手にある忌々しい印を見て、それからルキナのことを見ました。彼女はとても複雑な顔をしている。――無理もありませんね。私はあなたの母であったのだから。人間としての私は、あなたを愛していますし、あなたと一緒にいたいと願っている。けれど、邪竜としての私は絶望の未来を求め、あなたを殺めようとしている。あなたは父に似てとても優しい子。だから私が救われる道はないのかとたずねてくれました。でも、そんなものはないのです。私はギムレーであり、同様にギムレーは私であるのだから。もしそうでなかったらどれだけ良かったか。私とクロムさん、ルキナ、そしてマーク…四人で穏やかに生きていけたならどれだけ幸せだったか。ルキナの弟であるもうひとりの子、マークにも私は謝らなくてはいけませんね。あなたには苦労ばかりかけてしまった。無垢なあの子を利用した私を許してくれとまでは言いません。私はあなたの幸せをも奪ったのですから――。

私は首を横に振り、現実へ戻り、ルキナを見据えました。そろそろお別れの時。ルキナは「覚醒の儀」を行わなくてはならない。私を、邪竜を滅するため。失われた命のため。そして生きている命のため。私は出来るだけ優しく笑いました。――ルキナ。私の可愛い娘。私は彼女にすべてを告げて、その場から消えました。ルキナの真剣な眼差し。そこに見え隠れしていた悲しみや怒りや憎しみ――それでいいのです。あなたは私にもっとそれをぶつけてもよかったぐらいなのだから。じきに朝がくる。けれど、それより先に「私」の意識は消えるでしょう。最後にあなたの顔が見られてよかったです。

すべてを終えるためにあなたが私を倒してくれる時を、待っていますよ、ルキナ。


title:泡沫

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