覚醒 | ナノ


fire emblem awakening

「――あら、スミア?…随分と早いのね」

冬の早朝。それでも小鳥たちはとっくに起きていて、早々と鳴いている。それを耳に入れながらティアモが宿の二階から階下へと行くと、そこには親友の姿があった。蝋燭の火が室内をぼんやりと照らす。カーテンの向こうはまだ薄暗かった。ティアモがおりてきたことに気付いたスミアは、彼女を見て微笑む。そして立ち上がり、自分の座っていた椅子の右隣の椅子をひく。

「ごきげんよう。ティアモも早いんですね」

どうぞ、とスミアがティアモに座るよう言うと赤い髪をした彼女が「ありがとう」と礼の言葉を口にして腰をおろす。スミアはすぐには座らず、「ちょっと待っていてください」と言い部屋から出て行ってしまった。ティアモは首を傾げる。スミアの座っていた椅子のちょうど前に、一冊の本があった。栞も挟んである。どうやらスミアは読書をしていたようだ。またよくわからない本を読んでいるんだろうな、とティアモはそう思いながら表紙を見る。案の定、よくわからないタイトルだった。スミアは読書家だが、長い付き合いのティアモから見てもその趣向は奇抜と言えた。程なくして、スミアが戻ってきた。盆にふたり分の紅茶をのせて。淹れたばかりの紅茶が、よい香りを放つ。湯気が立ち上っている。この寒い季節は、温かな紅茶が美味しく感じられる季節でもある。ティアモは盆にのったカップふたつを手に取り、テーブルへ置く。スミアは盆を置き、それにのせられていたスティックタイプの砂糖とレモン一切れを取った。レモンをティアモのカップに落とし、砂糖を自分のカップに入れた。ティアモはレモンの入っている紅茶が、スミアは砂糖で甘くした紅茶が好きなのだ、それをよくわかっているからこそ、こうやってテキパキと出来るのである。

「…ありがとう、スミア」

ティアモが礼を言い、レモンを皿に置き、それからカップに口づける。そんな友人の姿を見てから、スミアもカップを手に取り、紅茶を飲む。身体の芯からあたたかくなっていく。とても、美味しい。紅茶の香りが満ちる。

「どうして今日はこんなに早いんですか…?」

スミアが問いかけた。

「特に理由はないわよ。目が覚めちゃっただけ。なんとなく階下に行ったら、あなたがいてびっくりしたわ」
「そう…ですか」
「スミアは?本を読みたくて早起きしたの?」

ティアモは半分ほど飲んだ紅茶をテーブルに置いてたずねた。かたん、と音をたてて。するとスミアは首を横に振る。カーテンの向こう側が、ゆっくりと明るくなっていく。ティアモの綺麗な瞳は、テーブルに置かれた本に向けられている。

「いえ……私もティアモと同じ…。目が覚めたから、読みかけの本を持っておりてきたんです」

スミアも本を見た。だいぶ、分厚い本だ。栞は三分の一あたりのページに挟まれている。また、鳥が歌う。それからふたりは沈黙し、紅茶を飲んだ。嫌な沈黙ではなかった。満ち足りていた。今、必要なのは言葉ではないのだと、ティアモもスミアもわかっていたから。ほぼ同時に、ふたりは紅茶を飲み終えた。また、かたんという音が響く。ティアモが時計を見た。そろそろ、誰かが起きてくるだろう。彼女は盆にカップを置く。スミアが立ち上がりかけたが、ティアモは首を横に振る。自分にやらせて。そう目が語っていた。――数分後、ティアモがスミアのもとに戻ってきた。

「美味しかったわ」

赤い髪を手で梳きつつ、彼女は友に言う。スミアは少しだけ頬を紅潮させ、それから笑った。早朝のティータイム。ふたりだけの優しい時間。この時が、ずっと終わらないで欲しい。そんな風に思ってしまうほどに。らしくない、とティアモは首を振る。スミアが丸い目で彼女を見て、疑問符を浮かべる。それに気付いた彼女は、ただ笑った。蝋燭の蝋が溶けていく。それに反比例する、大空の明るさ。今日もまた彼女たちは槍を手に戦う。愛する国のため。大切な仲間のため。たくさんの命のため。自分のため――そして、いま目があっている“彼女”のため――。ティアモとスミアは立ち上がり、椅子を戻し、並んで階段を上がった。右側の部屋にティアモが、左側の部屋にスミアが。これからふたりは荷物整理などをするのだろう。まだ眠っている仲間を起こさぬよう、静かに。ドアノブに手をかけて、ティアモとスミアはそれぞれの部屋へと入っていった。ふたりの秘密のティータイムを見ていたのは、蝋燭の火、そしてカーテンの隙間から覗き見ていた日の光。それだけだった。


title:空想アリア


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