覚醒 | ナノ


fire emblem awakening

色とりどりの花々が咲き乱れている。甘い蜜に誘惑された蝶々が舞う。それらを見つめる綺麗な青空の下に、ティアモとスミアの姿があった。スミアは「自分のお気に入りの場所があるから一緒に行かないか」と言い、この花畑にティアモを連れてきたのだった。ティアモはすぐに頷いた。クロムの率いる自警団のメンバーであるスミアと、イーリス聖王国天馬騎士団員のティアモは親友だった。お互いに信頼しあっており、ふたりの間にある絆は強く強く結び付いている。ふたりは静かに屈む。そして色鮮やかな花畑を見つめた。視線を低くすると、ひらひらと舞う蝶々と同じかたちをした世界を見ているように思えた。


「何か悩み事でも…あるんじゃないですか?」

花畑に到着して多分、五分かそこら。スミアが真横にいるティアモを見て言った。ティアモはえ?と首を傾げ、スミアが口にしたセリフを頭の中でリピートする。――悩み事。スミアが心配そうに彼女を見つめていた。

「……あ」

ティアモが小さな声を発する。風は草花だけでなく、訪れたふたりの髪をも撫でた。ティアモを見ていたスミアの視線が動く。遠くを見つめて、繰り返す。

「ティアモの話を…聞くくらいなら、私にも出来ますから」
「スミア……」

ティアモはやっと気付いた。スミアがお気に入りの場所へ自分を連れてきた理由を。彼女はただなんとなくティアモとふたりになりたかった訳ではない。ただ花を見たかっただけでもない。ふたりで話すべきことがあったから。ティアモを元気にしてあげたかったから。ふたりの間の友情が、日光の下、きらきらと輝いた。ティアモが微笑んだ。この地に咲く、桃色の花のように。

「実はね…」



「――ありがとう。スミア。話したらすっきりしたわ」

話し終えたティアモがスミアに向かってふたたび微笑んだ。穏やかな瞳。優しい心。スミアにとってティアモは特別だった。もちろん、ティアモから見ても同じである。

「本当に、聞くだけでいいのですか…?」
「そうね」
「でも……」
「――いいのよ、スミア。スミアが聞いてくれたから、ちょっと楽になったわ。……これは、あなたじゃなきゃ駄目だったはずよ」

そこまで言われると、少し恥ずかしくなってしまう。スミアは頬を赤らめた。小鳥たちの賑やかな話し声と、太陽の暖かなまなざし。平和だった。この光景だけを切り取ってしまえば。――世界は醜い争いごとで溢れている。賊が町や村を襲い、多数の犠牲者が出ている。傷付き、大切な人を失い、血を流すのはいつだって罪のない善良な人間たちだ。このままではこの世界の未来も、絶望しか存在しないものであるのだと、聖なる竜の力を借りて未来から来た少女が繰り返して言っていた。そう、世界を見据えれば自分の悩み事なんて小さいものなのだ、ティアモは思う。スミアに話したことにより、それもだいぶ軽くなった。

「そろそろ行きましょう。クロム様やルフレさんたちが心配するから」

ティアモが立ち上がり、スミアに手を伸ばす。スミアは頷いてその手をとる、立ち上がる。ざあっと少し強く風が吹いた。青に染まっていた空にも、白い雲が目立つようになっている。ふたりは並んで歩き出す。手を繋いではいないけれど、もっと他の深い部分でふたりは繋がっている。それは、絶対に切れたりしない。何があっても、ティアモはスミアと、スミアはティアモと共に戦う決意をしていた。仲間たちはこの花畑から十分ほど歩いたところにいるはずだ。風に乗って、甘い香りがまだ届く。女性騎士ふたりが、緑の中を進んでいく。その胸には、希望がある。どんなに残酷な運命が待ち受けていたとしても、その希望が輝いている限り、それを変えていけるはずだった。


title:空想アリア


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