覚醒 | ナノ


fire emblem awakening

雨が降っている。それは、大地を攻め立てるかのように見えた。山間の、小さな町。外にいるのはツインテールの少女――セレナだけだった。それ以外の人の姿はない。仲間たちと泊まる宿から出て、彼女は降りしきるそれを見つめていた。雨は好きではない。けれど、雨音はなんとなく好きだった。セレナは雨にあたらない所に立ち、鈍色の空を見上げる。絶望の未来から、その運命を変えるために彼女たちは時をこえて、愛する両親が生きるこの時代にやってきた。セレナも、母親であるティアモと再会出来て嬉しかった。もちろん、父親との再会も。それなのに。どうして自分はうまく甘えることが出来ないのだろう。嬉しい、という確かな想いを何故表すことが出来ないのだろう。素直になれない自分が、嫌になった。だから今、こうしてひとり、降り続く雨なんかを見ているのだ、もやもやした気持ちをぜんぶ洗い流して欲しいから。街路樹の葉が激しい雨に弄ばれている。ついに葉がひとつ、濡れた地面に落ちた。晴れていれば歌う小鳥も、今はどこかに隠れてしまっていた。幾つかの店も、この雨では客など来ないだろうと断言するかのように扉や窓を閉めている。まるで、ゴーストタウンのようだ。セレナは邪竜が復活したことによって訪れてしまった悲しい未来を思い出し、胸が痛んだ。

「セレナ」

突然、声をかけられセレナの心臓がどくん、となる。思わず利き手で胸元を押さえた。いつの間にか、隣に女性が立っているではないか。その人物は少女の名を呼んで、笑んでいる。長い髪は赤く、燃え盛る炎のよう。整った顔立ちと、すらりとした手足。そこに立っていたのは――セレナの母、ティアモだった。

「どうして外に?」
「別に。意味なんてないわ」
「あら、そうなの?」

口から出るのは、トゲトゲとした台詞ばかり。セレナは心の中で叫ぶ。こんなことが言いたいわけじゃない。こんなことを伝えたいわけじゃない。ティアモは微笑んでいる。まるで、すべてを理解しているように。セレナは黙って母の手を取った。繋がれる、手。体温が互いに伝わりあって、知らないうちに傷だらけになっていた心があたたかなそれによって癒えていく。ティアモは何も言わずに、その手を握りかえす。セレナは泣きそうになった。心の奥底から、愛を求めていた自分に気付いて。潤む瞳。涙が溢れてきそうだった。泣き顔なんて、見られたくない――セレナの気持ちに気付いたのだろう、ティアモは黙ったまま娘を抱きしめる。ふたりの長い髪が、混ざり合う。セレナはやっと泣くことが出来た。これは、必要な涙だったのだと理解しながら泣くことが。もう二度と離れ離れになりたくない。あんな未来は――父も、母も死んでしまうあんなにも悲しい未来は、もういらない。滅びの運命を変える。それが彼女たちに課せられたものなのだから。セレナの泣きじゃくる声は、雨音にかき消されるがティアモにだけは届いているようだった。――雨は、やみそうにない。ふたりは長い間、そうしていた。お互いにあたたかな愛を求めるように。ずっと。


title:白々


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