覚醒 | ナノ


fire emblem awakening

ロンクー×ティアモ、クロム×オリヴィエ前提。


「あんたってば、ばっかじゃないの?」

あたしはついそんな言葉を発してしまった。こんなことが言いたいわけじゃないのに。誤解を生むだけの言葉なんかを。

「あたしなんかを庇うなんて――」

そう、さっきの戦いでアズールはあたしのことを庇って怪我をしたのだ。骨を折ってしまったとかそこまで酷い怪我ではなかったけれど、すごく痛かったのは間違いないのだ。すぐにブレディがその傷を癒してくれたけれど、失った血はそんなに早く元通りにはならない。大事を取って数日間はベッドで寝ていろ、ブレディはそう言っていた。ブレディはぱっと見賊みたいだけど、本当は面倒見のいい優しい男だ。この部屋にいるのはあたしとアズールのふたりだけ。

ここはイーリスの東部にある、森に囲まれた小さな小さな町。あたしたちがこの町に来たのには理由がある。屍兵の討伐だ。こんなに小さな町にも屍兵の脅威が迫っているのだ。ここに生活をしている人々に、戦う力なんてほとんど無い。自分たちはそんな人たちを救うヒーローなのだ、とシンシアとウードがふたりで盛り上がっていたのは記憶に新しい。

「――可愛い女の子を守るのは男の役目だよ」

アズールはいつもと全く変わらない様子でそう言った。あたしは心の中で言う。あんたはイーリス聖王国の王子なんだから。あたしの命とあんたの命を天秤にかければあんたの命の方がずっとずっと重いんだから。あんたの姉さんにあたるルキナの左目に聖痕があるように、アズール、あんたの右目にも聖痕があるんだから。そんなあんたがもしあたしを庇って死んでしまったら――心の中でそういった言葉が渦を巻く。多分、これを声にしたらアズールは怒るだろう。だから、言わない。あたしが思ったこのことは、きっと正論。でもただ正論を振りかざすだけでなんとかなる世界じゃない。そんな世界だったら戦争なんておきないはずだ。

「それに、僕はセレナに怪我をさせたくないんだ。それだけだよ」
「……」

ね、とアズールは頷きながら言う。

その時、突然ドアがノックされた。控えめに数回。それに反応したのはアズールの方だった。あたしは彼の言葉に少しだけ混乱していて、すぐに反応できなかったのだ。彼の「どうぞ」という言葉のあと。やや重たいドアがゆっくりと開かれる。そこに立っていたのは――。

「か、母さん!?」

あたしとアズールの声が重なった。そう、この部屋を訪れた人物。それはあたしの母さんであるティアモと、アズールのお母さんであるオリヴィエさんだったのだ。母さんは燃え盛る炎に似た色の髪を、オリヴィエさんは春に咲く花のような色の髪を揺らして。

「あの……怪我はどうですか?」
「だだだ、大丈夫だよ、母さん」
「セレナもここにいたのね」

母さんが僅かに微笑んだ。それはとても優しげで、あたしには作れないほど柔らかかった。

「――娘を助けてくれてありがとう」
「えっ、あ…はい」

アズールが頬を赤らめて答える。あたしはそんな会話の中になかなか入れないでいた。この人に「ありがとう」って言うべきなのはあたし。でも、言えない。喉に突っかかってしまう。素直になれない自分が嫌になってくる。母さんみたいに自然に微笑んで、自然に礼を言って……そんな人間になりたいと思っている自分も確かにいるのに。

「ごめん、母さん。ティアモさん。僕、セレナと話したいことがあるんだ」

あたしが黙って考え事をしている間に、アズールはそんなことを口にした。あたしは目を丸くして彼を見る。一体、彼はあたしに何を言いたいっていうの!?、と胸の中で叫んでいるうちに母さんとオリヴィエさんは部屋を出ていってしまった。何も追求せずに、あっさりと。そして、この小さな部屋に残されたのはあたしとアズール。あたしは少しだけ目をつり上げて、もう一度視線を彼へと向ける。包帯でぐるぐる巻きになっているアズールの左腕。それが視界に入って来て、ちくちくとした痛みがあたしの中に芽生える。淡い水色の布団を半分ほどかけてベッドに座っているアズールは、数秒間目を閉じ、それからあたしのことを見る。

「な、何よ、話って……」
「セレナ。さっきも言ったけど、僕は君に怪我をさせたり、痛い思いをさせたくないだけなんだ。それは、僕にとって君が――とても大事な女性(ひと)だからだよ」
「………」
「セレナ…?」
「あ、アズールはやっぱりばかよ…!!あたしだって……あたしだって、あんたに痛い思いなんかさせたくないわよ!今回はこの程度で済んだけど……もし…もし、もっと酷い怪我だったら……!あ、あんたが死んじゃったりしたら……どうするのよっ!!」

あたしの瞳から熱いものが溢れだす。アズールは聖痕を宿す世界の希望のひとつだとか、そういったことをすべて横に置いておいて、あたしは泣き叫んだ。ぽろぽろと涙が溢れる。頬を伝い、床に落ちる。きっといまのあたしはすごい顔をしているに違いない。けれど、そんなことを気にしている余裕なんてない。

「ご、ごめん……ごめんね、セレナ。君の気持ちを無視して……僕、何もわかってなかったよ……本当にごめん」

繰り返し謝りながらアズールがあたしをそっと抱きしめた。泣きじゃくるあたしの背に、腕を回している。彼の体温。それは彼が確かにここにいるという事実を伝えてくれる。

「――約束するよ、僕は君を守る。そして、君をひとりにしないって」

アズールが言う。きっと、この言葉に嘘偽りはない。そして、あたしも同じことを思っていた。悲しいお別れなんてもうしたくない。あんなに辛い思いはもうしたくない。その為にあたしたちは未来からこの時代に来たんだから。その望みに、一文が書き足されたのだ。この人が進んでいくであろう未来への道。それを進む勇気を与えよう、と。


title:alkalism

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