覚醒 | ナノ


fire emblem awakening

大空がどこまでも高く、青く澄み渡っている。それは当たり前の事だけれど、今思えばそういった事が何よりも幸福に感じられた。そんな空を翔けていく白い鳥。ティアモはそれを見上げながら、胸元に手をやった。ティアモは、イーリス天馬騎士団の一員である。ペガサスに跨がり、守るべき者を守る。それが彼女の使命でもある。騎士団のメンバーが皆、命を落とした今――それはティアモの胸の中で燃え盛っていた。

ここはイーリス聖王国西部の小さな街。夜な夜な出没するという屍兵を倒すためにクロムとその仲間はこの街に滞在していた。昨晩も屍兵と戦った。その前の日もそうだ、今日もきっとそうなるに違いない。戦う力を持たない民の為にも、戦わなくてはならなかった。ティアモは空を仰ぐ。長い赤の髪が風に揺れている。彼女は街の隅にある小さな公園にいる。公園にはベンチがひとつ。多くの花々もまたティアモの髪同様ゆらゆらと揺れており、それらは芳しい香りを風に乗せていた。春である。小鳥が歌い、花が咲き、やわらかな風が吹き、そして優しい光が降り注ぐ季節。それでも人々は怯えている。戦いに、屍兵に、見えぬ未来に。人々の恐怖を拭うこと。それはティアモたちのやるべきことのひとつでもある。ティアモはそんな事を思いつつ、ベンチに腰をおろす。それからゆっくりと目を閉じた。そこには天馬騎士団の先輩たちの姿がある。命を落とした先輩たちの姿が。もっと仲良くしていたかった。もっと様々な話をしたかったし、彼女たちのことをもっと知りたかった。けれども――それはもう叶わない。失ってから本当の気持ちに気付く、だなんて。彼女の心が震えている。こんなにも思っても戻ることのない日々が、あまりにも遠くになってしまっていることに。

「……どうした?」

黙していたティアモにそんな声が降りかかった。突然のことだったから、彼女は驚いた。目を丸くしてその声の主の方へと視線を向ければ、そこには愛する人の姿がある。

「ロンクーさん……」

ロンクー。バジーリオの片腕で次期後継者として期待されている、フェリア連合王国の剣士だ。そのバジーリオの命令でクロムたちに同行するようになった男。クロムへの想いを消化したティアモが、永遠の愛を誓った人物。世界で一番愛する人――それがロンクーである。ロンクーは女性が苦手であったが、共に時間を過ごしているうちに彼女を愛するようになった。努力家で、何事にも真剣に取り組む女性ティアモを。

「こんなところで、何をしている?」
「いえ――ただ、ちょっと昔のことを考えていただけですよ」
「…そうか」

ティアモが微笑って答えれば、ロンクーはそれ以上何も問いかけてはこなかった。わかるのだろう、彼女が何を考えていたかが。わかってしまうのだろう、これほどまで側に居るから。ふたりの頭上を大きな翼の鳥が飛んでいった。鷹だろうか。先程飛んでいった白い鳥とは比べ物にならないくらい大きい。ロンクーは静かにティアモへと近づく。昔なら、ありえないことだった。あの頃は、こうやってたったひとりの女性を愛するようになるとは予測出来なかっただろう。苦手だったのだ、女性のことが。それでも今は触れられる。近くで呼吸することが出来る。寄り添って言葉をかわすことだって出来るのだ。

「座りますか?」

そう問われて、ロンクーは数秒考えてから「ああ」と答えた。ティアモが彼の座るスペースを作る。ロンクーは頭を垂れて、それから腰をおろした。鳥は鳴いている。穏やかな時が、緩やかに、だが確実に流れていく。あまり言葉は交わさない。けれども、満たされていた。ロンクーもティアモも、傍らに寄り添ってくれる存在がある、ただそれだけで幸せだったのだ。これからどんな困難が待ち受けていたとしても、自分には仲間がいる。愛する人もいる。そんな存在とともに最後まで戦い抜こう、と。愛する人がずっと笑顔のままで生きていける世界を、愛する人がもう悲しみの涙を流さずにいられる時代を、この手で掴み取る日までは。


title:エバーラスティングブルー

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