覚醒 | ナノ


fire emblem awakening

「また、花占い?」

俯きながら花弁を千切っているスミアに、長く赤い髪をした女性が苦笑しつつ声をかける。突然声が降ってきたものだから、スミアは驚きの声をもらした。午前八時半をまわった頃。そろそろ、天幕から仲間たちが出てくるような時間。スミアたちは比較的早く起きる傾向があるのだが。スミアの周りには、千切れた花弁が散らばっている。白い花を使っていたようだ、彼女の周りが真っ白になってしまっている。

「ティアモ……」

スミアが親友の名を口にした。ティアモはそっとスミアの隣に腰をおろす。スミアの前には誰かが熾したのだろう、火がぱちぱちと燃えており、燃え盛るそれは広がる景色を歪めていた。ティアモとスミアのいる場所から、少し離れた場所ではセルジュとオリヴィエが朝食の準備をしている。今日は彼女たちが料理当番のようだ。よい香りが風に運ばれてくる。

「ティアモは…」

スミアが口を開く。柔らかそうな長い髪が揺れた。耳のあたりから下がっている髪はくるくると捻られており、半分ほど花弁を千切られたその花に目線を落としている。相手の名を口にしてしまったのに、次の言葉が見つからない様子だった。ティアモは小さく笑ってみせる。そして、薄紅色の唇を開いた。

「またそう占ってる、ってことは、何か心配事でもあるの?」

ティアモが言うと、スミアは観念したようだった。中途半端に散った花を赤茶けた大地に置き、ふうと息を吐く。それからスミアは空を仰いだ。抜けるような空は、スミアやティアモたちを優しく見下ろしているだけだった。そんなふたりが眠った天幕から、ティアモの娘であるセレナと、スミアの娘であるシンシアが出てくる。ふたりはツインテールを揺らしながら、母親のもとへとかけてきた。そのため、スミアとティアモの会話が一旦途切れてしまった。シンシアは眠たそうに目を擦り、セレナは長い髪を手で梳いている。

「おはよう、母さん」
「おはようございます」
「セレナ、おはよう」
「…おはよう」

四人は挨拶を交わし、微笑む。起きてきたばかりのセレナとシンシアを、少し離れた場所で呼ぶ人物がいた。オリヴィエの息子アズールと、リズの息子ウードだ。ふたりもまた、セレナやシンシアたちと同じく未来からやってきた人物である。そんな彼女たちを率いていたのが、クロムの娘、ルキナだ。今はクロムもルキナも姿が見えないが。クロムもルキナも、割と早めに起きてくるタイプなので何かやることがあってこの場にいないのだ、と思われる。アズールとウードはここ数日、セレナとシンシアと同じグループとなって戦っている。だから何か決めたり、話し合ったりすることがあるのだろう。ティアモたちも朝食を食べたら、同じグループになって一緒に戦うマリアベルとルキナ、セルジュと話し合うことになっている。今日この森を抜けて、その先にある町を目指すのだから。娘たちは、母親に笑んでからアズールたちのところへと走っていった。そしてまた、スミアは中途半端に終わってしまった花占いを再開しようとした。が、ティアモがスミアの右手を掴む。スミアが目を丸くする。地に落ちた花弁が風にさらわれ、遙か彼方へと飛び去る。

「何かあったの?あたしで良ければ、話を聞くわ」
「ティアモ…」

スミアは花を置いた。それから「ティアモには全部わかってしまうんですね」と笑った。彼女は語り始めた。天才と呼ばれなにをやっても平均以上にこなせる親友と比べて、自分は落ちこぼれであると。色んな人たちに迷惑をかけているのではないかと。クロムたちのために、と振りかざすそれは結局自己満足に過ぎないのではないかと――。

「スミア」

話を聞いていたティアモが、悲しそうな顔をして、それからまたいつもの表情に戻って親友の名を呼んだ。スミアの瞳は潤んでいた。そんなスミアの肩に、ティアモは手を置く。

「自分で思っている以上に、スミアは強い。あたしが保証する。それに、みんなもきっとそう思ってるわ。――クロム様だって、いつもスミアに感謝しているはずよ」
「ティアモ……」

潤んでいた瞳から、それが零れ頬を伝った。ティアモは右手の人差し指で、それを拭ってやる。

「それにね、いつも頑張っているスミアを、迷惑だなんて思う人なんかいないわ。あたしはいつだってスミアを見てる。そんなあたしが言うんだから、間違いはないわ」
「……ありがとう、ティアモ…。私も、ティアモみたいになりたいです…」
「なれるわ」

ティアモがスミアの手から、花を取り上げながら答える。そんな彼女は、春風に揺れる花のように笑っている。スミアもやっと笑った。手で目を擦り、それから親友に感謝の言葉を口にした。いつの間にか、散らばっていた花弁はすべてなくなっていた。

「そろそろ朝食が出来るわ。いきましょう」
「はいっ」

ティアモが先に立ち上がり、手を差し伸べる。スミアはそれに自分の手を絡めた。ふたりは火を消してから、セルジュたちの方へと歩み始めた。そこにはリーダーのクロムや、その娘ルキナの姿もあった。まだ起きていないのはノノくらいだ、ノノの娘であるンンが呆れ顔で天幕に入っていく様子が見られた。

パンをふたつに千切ってから、ティアモはそれを口へと運ぶ。それから親友の方へ視線を動かすと、彼女はシンシアと何か話していた。シンシアは嬉しそうだった。シンシアにとってスミアは自慢の母親なのだ、きっと逆もそうなのだろう。髪で隠れていて見えないが、スミアもシンシアと似たような表情をしているに違いなかった。ティアモは反対側を見る。そこにはセレナがおり、彼女もまたパンを口に運んでいた。セレナが視線に気付き、「何よ」とティアモに言う。何でもないわ、と答えて笑えば、素直でない愛娘は顔を赤らめそっぽを向いてしまった。

風が吹き、木々は葉を揺らす。日の光が大地を照らす。食事や荷物の片付けも終わり、いよいよ出発だ。マリアベル、ルキナ、セルジュ、そしてスミアとの話も終わった。この森でも、当たり前のようにあの屍兵が出る。気を引き締めていかなくてはならない。ティアモは槍を握りしめる。ティアモとスミアはペガサスに跨り、ゆっくりと彼女たちは進み始めた。――マリアベルも、ルキナも、セルジュも。スミアとティアモの間にあったあの会話を知らない。知らないけれど、スミアが少しいつもと違うことに気付いているようだった。森を行く。少し前をクロムたちが。少し後ろをセレナやシンシアたちが、歩んでいる。わき出る屍兵たちを倒しながら。仲間たちの無事を祈りながら。ティアモたちの戦いは、まだ終わりそうもない。けれども、仲間と呼べる人たちが側にいる――それだけで、何倍、いや何十倍もの力が出せる。スミアが屍兵にトドメをさした。彼女を見ていると、改めてそう思うのだった。


title:空想アリア


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