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▼ 瑠璃色シャボン

※捏造、雰囲気小説


そこは賑やかな空間だった。壁にはダーツボードや額が飾られ、青空模様で埋め尽くされた床には色とりどりの玩具があちこちに転がっている。
その部屋の真ん中で座り込んでいるのは、小さな腕で大きなバスケットボールを抱える子供。くるくる旋回し続ける飛行機の下、無気力な瞳で空を見詰め、ただじっとしていた。
飛行機が大きな影を作り、それがくるくる回りつづける。くるくる、くるくる、くるくる、くるくる…

ふわり。

子供の横を何かが通った。ふわふわ、ゆっくりと動く、透明で虹色の玉。子供の目がそれを追うと、途端に弾けて消えてしまった。しかし、再びふわりと玉が飛んでくる。次から次へとふわりふわり。背後から流れてくるそれに瞬きをして、振り返った。
子供の瞳に映ったのは、真新しいタイヤに腰掛けたヒトの姿。その人が手元の器をつつき、細長いそれを口で挟むと、その先から玉が溢れ出す。
子供はその光景に暫し目を奪われた。やがて立ち上がり、そろりとその人の元へ向かう。
膝に置かれた器は、透明の液で満ちており、それに細長いストローが差し込まれる度、水面に幾重にも波紋が生まれる。その様子を熱心に見詰めていると、不意にその人が手を止めた。
「シャボン玉、って言うんだ」
虹の玉のような声。
「綺麗でしょ?」
ちょいと首を傾げて、その人が子供の瞳を覗いた。どちらもつぶらな瞳を瞬かせ、じっと見つめ合う。
「…キミも、やってみる?」
視線はそのまま、ストローを摘んだ右手を子供の目の前に持って行くと、直ぐさま子供の目がそれに向く。そっと両手で受け取って、見様見真似で口元に運んだ。息を吐くと、その人と同じ虹色が飛び出した。
「ほうら、綺麗だ」
子供は、ふわふわと飛んでいく球体を、じっと見ていた。


* * *


その部屋に新しい遊具が置かれ、だだっ広かった部屋が一気に狭く感じるようになった。少年は床に寝転がり、背中を丸めていた。その肌には生々しい傷痕があり、その引っ掻き傷は真新しいはずのハーフパイプに付いているものと同じだった。微動だにしない少年の上で、飛行機が旋回する。その影が何度も彼の表面を通過した。
気配が背中に立った。それはゆっくりとしゃがみ込み、少年の赤い頬に手をそえる。
「痛いの痛いの、とんでいけ」
そしてまたゆっくりと手を離した。それを何度か繰り返し、その手は少年の頭を撫でる。
「大丈夫、大丈夫」
暫くじっとしたままだった少年は、拳をきつく握り締めると、勢いよく起き上がり、涙を湛えた瞳でその人を見た。
「おいで」
広げられた腕に飛び込んだ少年、その頭を優しく撫でてやる。
「大丈夫、お前なら直ぐに仲良くなれるさ。お前はとても優しいんだ。優しくて、素直な子供よ」
優しく優しく言葉が紡がれ、少年の涙がその人を濡らした。


* * *


「名前!」
軽快に弾んだ声と共に、少年が彼女に飛び付いた。
「…重い」
「聞いてよ名前!コロモリがダルマッカにイタズラしてさぁ!」
「ああ、見てたさ」
苦笑混じりに応えた名前に、ダルマッカが恨めしげな視線を寄越す。
「ごめんごめん」
そう言って撫でてやると落ち着くようで満足げに目を細める。それにコロモリも寄ってきて、皆順番に撫でてやればおとなしくなった。
それを見ていた少年。ちょっぴり面白くなさそうにして、少し寂しそうにして、ぎゅっと目をつぶると、名前に突撃する。
「ボクも」
「…はいはい」
撫でられて、安心感に包まれた。名前の膝に頭を乗せて、少年は彼女の動作を眺める。何処から取り出したのか、浅い器に透明な液を張って、いつものように細長いそれの先端を浸す。ぷわぷわと溢れ出す球を、コロモリ達が追い掛ける。
「楽しそうだね」
「ふうん…」
名前の声よりも、心地好い眠気の方が大きくなってしまっていた。目を閉じて、意識が消える寸前、優しい手が頬を撫でた。


* * *


帽子を深く被り、青年は前を見据えた。固く閉ざされた扉は、もうすぐ開かれる。それから振り返って彼女を見る。いつの間にか自分の方が大きくなってしまっていて、こちらを見上げる彼女がやけに脆くみえた。
「…行くんだね」
「…うん、世界を変えたいんだ。トモダチのために」
「そうだね。君には沢山のトモダチがいる。きっとこれからも、もっと沢山増えるさ」
青年に近付きながら、力強く言う。
「君のことを知ろうとしてくれる人、君のことを認めてくれる人にも、きっと出会える」
慈しむように腕を回す。背の高い彼の首に無理して抱き着いた。青年は小さく肩を揺らした。
「名前?」
「もう、大丈夫。君は一人ぼっちじゃない。きっと見付かるよ、君の大事なモノ。だから、だから…」
前屈みになった彼の耳元に唇を寄せる。

「サヨナラ、N」

小さく息を呑んだ。次の瞬間には、彼女の姿は消えていた。






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別バージョンがごみ箱にあります。
2011.5.25


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