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▼ イナズマサンシャイン

その日は曇りがちで、夕方の薄暗い路地を歩いていました。制服姿、一人きり、ひ弱そうな少女。端から見れば恰好の獲物だったことでしょう。
案の定、一人の変態さんが私の進路に立ち塞がりました。その路地は狭くて汚くて、人が滅多に通りません。その荒げた息を聞いて、伸ばされる腕を見て、雨が降りそうだから近道しようと考えた数分前の私を恨みました。恐怖に喉が締め付けられ、腰が抜けてその場にうずくまり、変態さんがいよいよ私に触れようとしたその時に、彼は現れたのです。
曰く、トレーニングにランニングの途中だったらしく、怪しくなってきた雲行きを見て近道をしようとしたらしく、ああそれでは私と一緒ではありませんか!
曰く、怯える私の姿を捕らえた瞬間頭に血が上ったらしく、制服姿の私が彼の妹と被ったらしく、ああ私は貴方と一緒の学校に通っていたなんて!
颯爽と現れた彼は素早く無駄のない動きで変態さんに近付くと、目にも留まらぬ速度で強烈パンチをその腹部に叩き付けたのです。
私の目の前で変態さんは奇妙な声を上げて崩れ落ち、そのお陰で全身を現した彼の背後から、あんなに垂れ込めていた雲の切れ間が生じ、眩い光が降り注ぎました。キラキラと輝く銀の短髪、私を見詰める真っ直ぐな眼差しが私を射抜きました。
「笹川了平、推参!」
それと共に握り締めた拳が太陽のように煌めきました。その芯の通った声が、私の全身を貫いたのです。

それが恋に落ちた瞬間でした。

私は元々クラスでも目立たない存在で、学校のことにもあまり興味がありませんでした。
しかしその日を境に笹川了平さんの情報をかき集め、ボクシングクラブの部長であったり、座右の銘は「極限」であったり、二年生のときに卒業生代表になろうとしたり、体育祭にはA組のリーダーとなったことを知りました。なんと彼はあの笹川京子さんのお兄さんだと聞いたときには驚きで呼吸困難に陥りました。
調べれば調べる程に溢れてくる彼の武勇伝は、どれも惚れ惚れするものばかりです。
そして私は更なる前進をすべく、彼と接点のある人々にコンタクトを計りました。どうやらその方々は学校内でも有名らしく、ファンクラブなるものまで結成されているとかで、ああやはり彼は交友関係まで人並みにあらず!
その人々の計らいで、私は彼と再会する機会をいただきました。
ああどうしましょうか!再会してまず何を話せばよいのでしょう。お礼を言わなくては、そしてなんとか友人枠に食い込まなくては、あわよくばこの熱い想いを伝えたいなんて、ああ何と言えばいいのでしょうか!
逸る気持ちを何とか抑え、私は彼に会いに行きました。
彼は校舎裏に一人佇み、そよ風に身を委ねていました。その姿はまさに気高き戦士のようで、駆け寄った私に気付いた彼はこちらを見詰め、ゆっくりと口を開きました。
「誰だ?」

それが雷の落ちた瞬間でした。





ーーー
もう書くことはないであろう了平兄夢。推参!ってのがかっこよかったので…
2011.4.1


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