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▼ どうしたの?

暑さも過ぎ、冷たい風が頬に吹き付ける。段々日が沈むのが早くなってきた。骸は一人、どこか覚束ない足取りで小道を歩む。マフラーに埋めた顔は少し気怠げで、小さく鼻を啜る姿は病み上がりと形容するに相応しい。つい最近まで風邪を拗らせ高熱にうなされていた彼は、数日ぶりに海へ向かっていた。
あの子はいるのだろうか。自分が向かえずにいた間も、浜辺で歌っていたのだろうか。取り留めもないことを思いつつ、自然早足になる。
高台から砂浜を見下ろす。海から吹いて来る冷たい風が頬をなで、何故か胸騒ぎがした。幾重にも波が押し寄せ、砂浜に運ばれた貝殻が半ば砂に埋もれていた。
足跡はない。人影も、ない。
彼女が、いない。
「――ッ!!」
全身が動揺したのを、回らない頭で理解する。浜辺に視線を向けたまま一段飛ばしに階段を駆け降りると、最後の段でつんのめり、無様に砂に減り込んだ。体を起こせないで、ただ同じ言葉ばかりがぐるぐると駆け巡る。
何故、どうして、あの子は、あの子が、何故、僕がいない間も、いや、僕がいない間に、どうして、何で、あの子は、あの子は…

「わ、どうしたの?」

不意に上から聞こえた声。ゆるりと頭を持ち上げると、階段の一番上に、いつもの白いワンピースをはためかせ、防寒着を着込んだあの子がいた。
驚いたように瞳を大きくしていたが、骸が特に怪我もないと分かると安堵したようにふにゃりと笑った。彼女が階段をゆっくり降りてくる様子を呆けたように眺めていた骸。その前に立ち、そっと手を差し延べた。
「…久しぶり、だね」
淡い笑みを向けられて、骸もやっと安堵する。そしてすぐにはっとした。自分が安堵したことに気付き、驚いた。不思議そうに覗き込んでくる少女を瞳に映し、じわじわと心に沁みる温もりに気付いた。
「……」

――ああ、そうか。

少女の手を取り、立ち上がる。その手を繋いだままにしていると、彼女は再び不思議がって首を傾げた。その動作に目を細めた骸が衝動のままに引き寄せれば、息を呑む。身を強張らせた少女を、慈しむように抱きしめた。
「……」
目を見開いて固まっていた彼女も、やがて柔らかく腕を回す。
自身よりずっと華奢な体は簡単に壊れてしまいそうで、しかし確かな温もりを感じた。その心地に、静かに目を閉じた。

――僕は、僕自身が思っていた以上に君のことを…






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骸が別人だ。詐欺だ。
無理に甘くするもんじゃねえや。
2011.3.27


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