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▼ 元親編

チカちゃん。私はそう呼んでいる。
彼と私は所謂幼なじみというやつで、小さい頃は仲良しで、一緒にままごとしたり綾取りしたり、時々公園でブランコを漕いだり滑り台で遊んだりしたけれど、専ら家の中で遊ぶことが多かった。
しかしある日、チカちゃんが携帯ゲーム機を買ってもらったらしく、楽しそうにプレイするのを横から覗いていた。その日を境に私達はゲームをすることが多くなった。私よりずっと大人しかったチカちゃんも、ゲームを買いあさりプラモデルを買いあさる内に男友達が増えて、どんどん元気っ子になっていった。
その延長が、今のアレ。銀の髪に紫の眼帯、ガタイの良い体と柄の悪さで悪目立ちする不良、長曾我部元親。
毎日ろくに学校にも来ないし、暴走族の頭とつるんだり喧嘩したりと、幼い頃のお人形さん遊びしていた影なんてこれっぽっちもない。
対する私は、チカちゃんが集めたゲームよりも漫画やアニメに興味を持ち、今では立派な地味なオタクだ。
道が真っ二つに別れてしまった私達は、中学高校ともなればお互い顔を合わせることも少なくなり、いつしかただの同級生となっていた。
はずだった。
のに、チカちゃんは、久しぶりに登校したと思えば、恐ろしいことに手下の野郎共を引き連れ、堂々と私のクラスに乗り込んできたのだ。目付きの悪い不良達がクラスで目立たない女子の机を囲み、何やらピリピリした空気を作っているから、クラスメイトの皆はそれはもうビビったことだろう。唯一チカちゃんとマブダチらしい伊達君(暴走族の頭)だけニヤニヤしていたのは覚えてる。
しかしなんやらいちゃもんを付けてくる訳ではなく、小さく畳まれた紙を一枚机にたたき付けられただけで、チカちゃんと愉快な仲間達はぞろぞろと退散していった。
なんだったんだと首を傾げて、クラスメイトからの視線をバシバシ感じながらも紙を開いてみる。
簡潔に、放課後校舎裏に呼び出しという旨が書かれていた。
これはフルボッコフラグか。しかしそれならわざわざ呼び出さなくても、さっきのタイミングで連れ出せばよかったのに。というか私なんかしたっけ?
悶々と悩んでも、答えはでず、クラスメイトも助けてくれず、伊達君が面白そうに紙の内容を尋ねてきたから「なんか…呼び出されたっぽい」と返すと、更に笑みを深めていた。何か裏がありそうな笑みだったけれど、担任の先生がやってきてホームルームが始まり、聞き出すタイミングを逃してしまった。

そしてあっという間に放課後である。昼休み購買に行くとチカちゃんを見掛けたけど、あからさまに目を逸らされた。野郎共を引き連れてそそくさと去っていく姿に、なんじゃあれと心中で呟いたり。
掃除を終えた私は、さっさと帰ろうと昇降口に向かった。そして下駄箱を開けて気付く。小さな白い花が一輪、靴の上に乗せられていた。そこで漸くチカちゃんに呼び出されていたのを思い出し、靴に履き変えると、その花を両手で持ち、校舎裏へと向かった。
花なんて…似合わないな。少なくとも今のチカちゃんには。

校舎裏には既にチカちゃんの姿があった。背中で感じる威圧感がハンパない。本当、昔の面影はすっかりない。その威圧感にやや尻込みしつつ、そろりと声を掛けた。
「えっと〜…チ、あ、いや長曾我部君?」
今更馴れ馴れしくチカちゃんなんて、呼んでいいのかな。
その声に振り向いたチカちゃんは、一瞬驚いた顔をした。
「お、おう名前!ちゃんと来てくれたな?」
チカちゃんは相変わらず名前で呼んでくれた。
「はあ、まあ…あ、この花って」
「あーそいつはだな、アンタが約束忘れてんじゃねえかって言われてよ…」
「あ、あはは…その通りでしたゴメン」
そう言うと、ガックリ肩を落とすチカちゃん。やがて顔を上げたチカちゃんは、何やらそわそわし始める。ガタイの良いチカちゃんには似合わなさ過ぎる動作だ。呼び出したのはそっちなんだから何かしらアクションを起こしてほしいんだが。
「…あの、長曾我部君?」
「あ?あー…その、なんだ。なんかアンタ、よそよそしくなったな」
いきなりそんなことを言われた。
「うん…まあ、あんまり喋らなくなったし、昔に比べて。お互い変わっちゃったしさ」
へへへと笑いながら頬をかく。と、何故か押し黙るチカちゃん。地面を睨んで何やら思案顔、というか真顔になっててちょっと怖い。そして一句一句考えるように言葉を紡ぐ。
「確かに俺ぁ、あの頃に比べて変わったかもな。見た通りでかくなった。野郎共も出来た、ダチも増えた。…だが、一つだけ、変わっちゃいねえモンがある」
チカちゃんが、こちらを向いた。真っ直ぐな目の力強い光が私を捕らえる。
「アンタに対する想いは、昔っからのままだ」
「…え?」
話の流れが読めなくて、つい聞き返すと、急にしどろもどろになるチカちゃん。
「いや、だからよぅ!俺ぁずっと昔っからアンタの…や、つまり…その、なんだ」
「なんだ??」
「…名前!俺の女になれってんだよ!!」
真っ赤な顔で言い切った。
「…えっ」
「えっ」
「ええっ?!!」
吃驚した!まさか、あのチカちゃんが?!私に?!告白?!
「なっ…んだよ!そんな驚くモンかぁ?」
チカちゃんが焦り出すが、私も焦ってる。
「だ、だって!全然そんな要素なかったじゃん!私ら最近全く会ってなかったし?!」
「だから昔っからだって言ってんじゃねえか!アンタのことはな、小学校の頃から惚れてんだよ!!」
「しょっ…!!」
「わりいかよ!!」
「べっ別にぃ?!!」
段々声量が大きくなって、思いっ切り切り返した後には肩で息をする始末。そこまで行って、急に恥ずかしくなった。
「お、おう…」
チカちゃんも私も顔が真っ赤だ。畜生なんだコレ。
「…で、返事はどうなんだ?」
収まってきた頃、チカちゃんが静かに尋ねる。真っ直ぐこちらを見詰める目は、昔と同じ、綺麗な色だった。
変わってないんだ。
昔から、私を見る目は。
「…チカちゃん」
「!!」
そう呼んでみたら、チカちゃんは吃驚した。
「私もね、なんか寂しかったんだ。チカちゃんが、私の知らない誰かさんになっていくみたいで」
チカちゃんが何か言いたそうに口を開いて、でもその前に再び話す。
「でも、チカちゃんはやっぱりチカちゃんだった。だからさ…これからは一緒にいてくれるって言うんなら、オッケーしたげる」
そうしてはにかんでみせた。対するチカちゃんは、右目を見開いたと思ったら、みるみる喜色を滲ませて、思いっ切り抱き着いてきた。
「名前…!アンタってヤツはよぅ!!」
「ちょっチカちゃん苦しい潰れる!つぶれっぐええ」
「言われなくとも、もう一生離さねえよ!」
「いや離して今すぐ離してなんか出る内臓的な何かが出る」
「よし…そうときまりゃあ」
「チカちゃん話聞いてお願いだから」
「野郎共、宴会と洒落込もうぜー!!」
「アニキー!!!」
瞬間、草木の中から沢山の野郎共が飛び出した。
「えええええずっといたの?!!」
「おめでとうございやすアニキィ!!」
「流石だぜアニキー!!」
「ハッハ、こんなに気分がいいのは久しぶりだぜ!おい野郎共、今日は俺の奢りだ!遠慮しねえでたらふく食えよ!!」
「アニキー!!!」
「ええ何このテンション…あぁあもう恥ずかしい」
「名前も勿論来いよ?今日の主役はアンタと俺だからな」
さっきまでの恥じらいは何処へやら、もうすっかり良い調子のチカちゃん。なんか悔しい。なのでちょっぴり意地悪してやる。
「…そんなこと言って、お金ある訳?」
最近妙なロボットを作っていることは知っているのだ。
「ゔっ!」
その一言に、あっという間に顔を真っ青にする。
「ア、アニキー!やっぱ俺達が出しますぜ!」
「そうですよ!主役に奢らせる訳にゃいきませんって!」
必死にフォローに入る野郎共。しかしチカちゃんのライフは減っていくばかりだ。目に見えて落ち込むチカちゃんは、それでもちゃっかり私の肩を抱いている。
仕方ないから、頭を撫でてやった。
ら、凄く嬉しそうにした。そして周りの野郎共が冷やかしまくるので、つい力んで叩いてしまった。
「ッテェ!アンタなぁ、慰めんのか虐めんのかはっきりしろよな?!」
「どっちでもないよ。…早く行こう、チカちゃん」
私から腕を引く。するとチカちゃんはまんざらでもなさそうな顔して、直ぐに機嫌を直してしまった。本当、調子いいんだから。
「あんなに幸せそうなアニキ、レアモノだぜ」
「まったくな」
「名前の姉貴も嬉しそうな顔してらぁ」
そんな対話が聞こえて、えっと息を飲んだ。
私も顔に出る程嬉しかったんだと、自覚がなかった。
でも、言われてみれば確かに、今、すごくいい気分。






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意外と初なアニキも良いと思います。
2011.8.21


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