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▼ 佐久間編

佐久間君の足がしなり、鋭い蹴りがボールを飛ばす。風を纏ったサッカーボールはみるみる内にゴールへ吸い込まれ…
「フルパワーシールド!!」
ゴールキーパーが、大きな声と共に飛び上がり、逆さまになって拳を地面に打ち付けた。瞬間、飛び出した衝撃波がシュートを防ぐ。
鳴り響くホイッスル。今日の練習は終わったらしい。
私はタオルを手に、いそいそと佐久間君の元へ向かう。
「お、お疲れ様」
「!?苗字…苗字?!!」
口に含んだドリンクを撒き散らして振り返った佐久間君は、綺麗なおめめが飛び出るんじゃないかというほどかっ開いていた。
「あの…えっと、タオル、よかったら…」
おっかなびっくりぎくしゃくしつつ、差し出したタオル。
「あ、ああ」
それを手に取って、無言で汗を拭う佐久間君。ついでに被害を被っていた辺見君にもハンカチを渡しておいた。
いやあ、やっぱりイケメンは絵になるなぁ。佐久間君の場合は男の娘寄りだけど、源田君とか成神君とか、ゴーグル取ったらなんかすごいらしい鬼道君とか、つくづく二次元属性だよな帝国学園サッカー部。
「ってそうじゃなくて!!」
汗を拭ってさっぱりした佐久間君が、急に吠え出した。
「何で苗字がここにいるんだ?!」
「え、いや、それはその」
友達に、佐久間君とお付き合いを始めた事がばれてしまい、彼女なら部活の応援くらい行ってこいと怒られ、その他色々なアドバイスをいただいてしまったので、恥ずかしさで死にそうなのを堪えてやって来た次第である。さっきから殺されそうな程突き刺さる女の子達の視線に冷や汗が止まらない。
と、だいたいこんな内容を伝えると、がっくりうなだれる佐久間君。
なんか悪いことをしてしまったのだろうか。どうしようどうすればいいのかまるで分からない。
「…格好悪いとこ見られた」
ボソリと零した台詞。
おそらくそれは、練習終了直前のこと。佐久間君のシュートが止められてしまったアレだ。
俯いて落ちた銀色の髪から垣間見える耳がほんのり赤く色付いていた。
なに。なんなのこのかわいい生き物。
「…全ッ然!!」
私の声に佐久間君だけでなく、他のサッカーメンバーまでもがこちらを向いた。
「全然格好悪くなんてなかった!佐久間君がボール蹴るとき、すごかった!何て言うかこう…とにかくかっこよかったよマジで!!」
上手い表現が見つからないけれど、佐久間君の姿は本当にすごかったのだ。それを必死に伝えるうちに、佐久間君にガン見されていることに気付き、更に周囲の人にもポカンとした顔で見詰められていることにも気付いてしまった。
「オゥ…」
徐々に恥ずかしさが湧いて来て、茹蛸みたいになってしまう。しかし同じくらい佐久間君も真っ赤だ。
しゃがみ込んでいた彼は勢いよく立ち上がり、辺見君の顎に頭突きを食らわしつつ、私の肩をがっくがくに揺さ振る。
「苗字〜!なんでお前は、お前はー!そんなに可愛いんだよー!!」
「ええぇええ」
その後興奮冷めぬ佐久間君は、サッカー部員を巻き込んで必殺シュート(皇帝ペンギンなんちゃら)を叩き込み、見事源田君の守りを破ってみせた。けれど佐久間君の格好よさよりも地面から飛び出したペンギンの可愛さの方が、むしろ佐久間君とペンギンのセットの愛らしさが気になってしまって「佐久間君可愛い」と伝えると微妙な顔をされてしまった。彼女になるって難しい。



2011.9.23


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