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▼ 春風と共に

重い扉をゆっくり開けて一歩踏み出せばそこは屋上。春の陽光と桜の香を運ぶ風を体全体で感じながら、私は歩く。フェンスにもたれ掛かって呟いた。
「春だなぁ…」

「進級早々サボりかい?」

返事は来ないと思っていたのに、返事と言い難いかもしれないが、言葉が降ってきた。上を見ると給水タンクに乗っかる人影。
「進級して初めて会うねぇ、雲雀君」
呑気に片手を上げて挨拶すると、雲雀は不機嫌そうな顔でそこから飛び降りた。
「君は何時まで経ってもサボり癖が治らないようだね」
「雲雀君こそ、よくここにいるじゃんか」
空を見上げながらあげた気の抜けた声にムッとする雲雀。名前はさほど気にせず続ける。
「私、教室に篭るの嫌いなんだ」
返答はなく、本人も返事がほしいわけでもないそれは独り言にも近い。
「だってさ、教室の中じゃこんなふうに気持ちいい風に当たれないでしょ?」
「……」
「…それにね、雲雀君、群れるの嫌いでしょ?」
「それが何?」
教室に他の人達と一緒にいたら群れることになるでしょー、と笑いながら答えた。雲雀は相変わらず納得しない表情だが、それ以上は何も言わない。
二人ともフェンスに体重を預け、街を見下ろす。春風が髪を揺らし、陽光が肌を暖めた。しばらく、無言の時間が流れた。
「…私ね、」
不意に口を利いたのは名前。フェンスから体を離して雲雀の方へ向き直る。


「雲雀君との、この時間が、好き」


雲雀はというと、一瞬切れ長の目を丸くしたかと思うとすぐ目蓋を閉じて溜め息混じりの笑みを漏らし、一言。


「…まあ、悪くないね」



2010.5.1


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