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▼ 私と小鳥と君と

それは天気の良い日の午後。暖かな空気に包まれた街の一角で、三人の少年達が円を作っていた。三人だとむしろ三角形だが気にしない。
「…どうしたものでしょうねぇ」
「…ゴクリ」
「……」
その中心には小さな生命、青い羽根を生やした小鳥がいた。片翼が不自然な方向に曲がっており、どうやら怪我をしているらしい。いつものように活動し始めた彼等の前に突如落ちてきた青い鳥。大怪我にもかかわらず元気に地べたをはいずりぴいぴい喚いている。
この鳥を如何すべきか。見殺しにするには少々いたたまれない。かといって怪我をどうにかすることも出来ない。各々思考を巡らせるがこれといった名案は浮かばない。
そんなとき、いつもタイミングよくやって来るのが、


「よ」


名前だった。
路地の角から顔をひょっこり出して、相変わらずの無表情で片手をあげる。骸はそちらに一度目を向けるが、再び下を向いて溜め息をつく。
「…?」
いつも以上に寂しい反応に疑問を持ち、つられて視線を下げ、小鳥の存在に気付く。
困っているらしい骸。千種もひたすら見つめるだけで何も手出し出来ないらしい。犬に至っては口の端から涎を垂らして「美味そう…」と呟いている。犬の言動はスルーして骸に向き直った。
「…怪我、してるのか」
「そのようですね」
相変わらず地べたをはいずっている小鳥。それをじっと見守る骸。


骸は、こういう小さな命には優しいのかな…?


名前は少しばかり思案して、口を開く。
「動物病院とか、連れてくか」
そう言うと、小鳥をそっと両手で包み込むように拾い上げた。


目立ちたがらない友達の代わりに。


* * *


「すぐ治るって」
名前の両手の中に収まった小鳥は元気そうにピイと鳴いた。
ホッと息を吐き出す千種と、さして興味なさそうにしながらも何と無く安心した空気を醸し出す骸(このツンデレめ!)。犬もまあ良かったんじゃない?という顔をしている。


何だかんだで優しい子達なんだな。


そこで名前は袋を突き出す。
反射的に受け取る骸と、何事かと覗き込む二人。
「エサ」
一言の説明。怪我が完治するまで面倒を見るのが自分達の役目、ということだ。責任重大だ。
「守ってあげよう…自分達で」
そっと骸の手の平に乗せると、小鳥は再びピイと鳴く。しばしの間見つめ合う一人と一匹。やがて骸は口元に笑みを湛えた。
「…そうですね」


数日後。
「…元気?」
角から顔を出した名前が骸に問うと、彼ではなく頭の上に乗った小鳥がピイと返事する。小鳥は数日のうちに随分元気になっていた。まだフラフラと覚束ないが、少しの間なら羽ばたくことが出来るまでになっていた。


…また頭に乗ってる。


そして、決まって骸の頭に着地する。骸は最初は勿論嫌そうにしていたが、最近は諦めたらしく好きにさせている。


……かわいい。かわいいけど、頭に乗るってことはつまり…


「…何ですか」
笑いそうなのを必死に堪えている名前を骸が訝しげに睨むので「何でもない」と手の平を横に振る。骸はまだじとっとした視線を送ってはいたが、同時に器用に小鳥に餌をやる。その様子を見ると、小鳥はもう十分体力が回復しているようだ。
「そろそろ、見せに行こうか」
その言葉に、皆嬉しそうに頷いた。


* * *


「……」
「…じゃあ」
「…行きますか」
「…うぅ」
千種、名前、骸、犬の見守る中、両手で優しく包まれていた小鳥がそっと顔を出す。慎重に腕を持ち上げ、手の平を天に掲げた。
そして、次の瞬間。
「あっ…」
「…!」
小鳥は力強く羽ばたき、あっという間に手の中から抜け出した。太陽に向かって一直線に飛んでいく姿を見送る子供達。千種は心なしか微笑んでいるように見え、犬は少し悲しそうに視線を落としている。
「…六道?」
名前がそっと顔を覗き込む。
「……」
「……」
「……」
「………だいじょぶ、だ」
その言葉に骸が顔を上げると、名前はそっと微笑んでいた。
「寂しくない…あの鳥のことを忘れなければ、ずっと寂しくなんてない」
彼女は諭すように語る。
「それに…お前には、仲間がいる。ずっと、ずっと一緒の仲間が」
犬や千種が二人を見守る。骸は彼等を見て、
「仲間…ですか」
小さく呟いた。名前は頷いてみせた。
不意に顔を向けた骸が名前に問う。普段の彼とは違って少し自信なげな表情だ。
「君は、」
「…?」
「君は…居てくれますか? 僕の…」
尻窄みになった言葉はそこで途切れた。
名前は暫し無言でいたが、やがて優しく骸の手を取る。
「いるよ…側に、いるから」
ゆるりとはにかむ名前と、それに多少驚きながらも真正面から見つめる骸。二人の間に和やかな雰囲気が溢れ出す。


そこへ――


小さな羽音と共に小鳥がやって来た。それは今し方放してやったばかりの青い鳥で、自然な動作で骸の頭に着地すると、嬉しそうにピイピイと鳴く。
「お前は…」
「戻ってきたびょん…」
目を丸める骸と犬。千種も目を瞬かせている。
「…気に入られたな」
名前が楽しそうにぼやいた。骸は手を伸ばし、羽毛に覆われた小さな体をそろりと撫でる。すると小鳥は嬉しそうに擦り寄った。
「名前…付けてあげれば?」
「僕が、付けてもいいんですか? この子を、僕達が…」
骸が目を伏せる。一つの命を預かることに不安を感じているのだろう。名前は力強く言う。
「世話しよう…これからも、ずっと」
視線を合わせて、柔らかな笑みを浮かべて、
「一緒に」
そう言うと、骸もやっと微笑んだ。
「そうですね…一緒に」



私と君と、二人一緒に。


小鳥と二人、皆一緒に。





オマケ


骸の頭に乗った小鳥を見て、名前が徐に口を開いた。
「六道、知ってるか」
「何がです?」
「鳥は…高いところにいるほうが賢いと認識してるらしい。つまり、頭に乗られてるお前はその鳥に見下さr…」
「…………」
「…何でもない」
「なら笑わないでくれますか」
「……ふ、…」
「……」
ピヨピヨ♪



おしまい。






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まず初めに、リク下さったユウ様、酷く遅くなった上にとんだ駄文ですみませんでしたー!!!(スライディング土下座)
6000Hitキリリク、連載ヒロインで骸ほのぼの(?)夢でした。ほのぼのって何だろう…


現代骸で書こうと思っていたんですが中々ネタが上手くいかず、本編でもまだ登場していないので敢え無く過去編骸です。


実はこの小鳥ちゃんの話、本編の過去編に載せようと目論んでいたものでした。でも結局ボツになったのでせっかくだからとここで復活させていただきました。
しかもこの話、続きも考えていたんです。それも機会があれば書きたいなあ、なんて。
そんな感じで、拙い文章ですがキリ番記念にユウ様に捧げます!



2010.3.23


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