あやかしあかし | ナノ
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「苗字殿」
「はい?」
「どうか某のことは幸村とお呼び下され、堅苦しい言葉遣いも必要ありませぬ。貴殿の過ごしやすいようにしてほしい」
「うーん、じゃあそうするけど、なら幸村も名前って呼んでほしいなぁ。苗字で呼ばれるのってなんだかむず痒くって」
「なれば名前殿と呼ばせていただきましょうぞ」
「うん、お願い」
そんなやり取りを経て、幸村と名前の共同生活が始まった。
「それにしても…先ずは一人分の生活必需品がほしいよね。お金あるかな…」
「う、申し訳ござらぬ」
「いいよって言ったのは私なんだし気にしないで。早速買いに行…くのは無理だね」
外はもう真っ暗だ。仕方ないので今日はジャージでも着てもらうことにして、名前は幸村の格好を上から下までじっくり眺めた。薄汚れた衣服に泥の付いた肌、ボサボサの髪…
「幸村、お風呂入ってきて」
まさか本当に何日も体を洗っていないのだろうか。
「ふ、風呂でござるか…」
対する幸村はぎこちない返答をする。目が泳いでいるし手がそわそわしてる。
「…お風呂嫌いなの?」
「そ、そのようなことは…」
図星らしい。
意外だ。毎日セレブリティー溢れるライオンの飾りが付いてるような広い浴槽でワイン風呂とかしてそうなのに。いやしかし彼は20歳未満だろう。ワイン風呂は無いにしろ銭湯みたいな風呂を使っていると思っていた。
「何だったら頭くらい洗ってあげるけど」
「なっなっ男女が共に風呂に入るなど破廉恥千万!!」
軽い気持ちで提案すれば、顔を真っ赤にさせて逃げてしまった。
「タオルと…ジャージ置いとくからねー。あと下着は…」
これは今から買ってくるしかない。


* * *


ドライヤーをかけてやると茶色の髪は犬のようにふわふわになった。その感触を堪能していると、幸村は気持ち良さそうに目を細める。
「ドライヤーは好き?」
「…寝てしまいそうだ」
本当に眠そうにしていて、名前は笑みを漏らした。
「寝るなら布団でね。…あ、布団一枚しかないや」
途端、幸村は目を全開にしてみるみる顔を真っ赤に染める。
「ははははれっ」
「じゃあ私は毛布にでも包まって寝とくから、お布団引いてあげるね」
あっさりスルーした名前。
「っ……い、いえ某は必要ありませぬ故、名前殿がお使い下され、居候の身である某が使うわけには行きますまい」
「それは…うーん、やだなぁ」
「は?」
「幸村が布団で寝ないのはいやーって」
「しかし…」
「そうだね…一緒に寝ようか」
「ブフッ」
鼻から血を吹いた後、幸村の絶叫がアパートを震わせた。


* * *


部屋の真ん中に敷かれた布団の上で名前が手招きする。
「ほら、そんなところにいたら寒いよ」
幸村は駄目でござる無理でござると首を振る。
「女子とそ、添い寝など!」
「幸村は何もしないでしょ?」
「…んな!無論でござる!!」
「じゃあ大丈夫、ほら」
空いたスペースをぽふぽふ叩いて催促するが、彼は頑なに拒んだ。痺れを切らした名前は、布団からその体を退けてしまった。
「なら私も布団で寝ない」
「な、なんと」
いそいそと毛布に包まる名前を見て、おろおろしだす幸村。
「そのような…風邪を引いてしまいますぞ!」
「幸村だってそのまま寝たら寒いでしょ」
部屋の隅で縮こまった彼を見て、毛布を被ったまま立ち上がり近寄る。
「某は平気でござる!この体に宿る熱き魂を持ってすれば寒さなどブッ!」
喚く幸村に毛布を頭から掛け、名前自身も潜り込んだ。
「なっ…なっ何を!!」
「ほんと、幸村暖かいね〜…おやすみなさい」
「お待ち下され!このような…」
「……」
最早返事はなかった。寝てしまったのか、騒いで起こすのも忍びない。幸村は何度か腕を上げたり下げたりしていたが、結局何も出来ないまま落ち着いてしまった。
名前が毛布越しにもたれ掛かり、電気も消され下手に身動き出来ないまま、彼の眠れない夜が更けていく。



2012.1.15