あやかしあかし | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


十三

ぎらぎらと照り付ける太陽の下、無言で歩を進める二人。
幸村の服は、少々サイズが大きかったようだ。涼しい顔で名前の隣を歩く元就は、時折鬱陶しそうに袖を捲る。
ふわふわの黄金色の耳や九もあった見事な尻尾は幸村のように隠すことが出来たらしく、ちょっぴり落胆した名前だった。
元就の冷静な目。それは絶えず遠くへ飛ばされている。名前には見えないものを見ているのかもしれない。彼女には分からないことだ。
けれど逆に、名前には見えているものが彼には見えていない。そんなこともあるのかもしれない。
「……」
横顔に刺さる視線が煩わしいのか、何だとばかりに元就が見下ろした。
「ね、あそこに行こう」
名前が指をさしたのは、いつぞやのカフェ。幸村と行こうとして、行けなかった場所。
元就は当然嫌な顔をする。
己が原因で行けなかったところに誘うとは、名前も中々人が悪い。それともただの天然か、始終笑顔の表情からは測れはしなかった。
「…よかろう」
仕方なしに返事を返せば、より一層笑みを深める名前だった。
店内は程よく冷房が効いており、名前は一息ついて汗を拭う。元就はと言えば、汗一つかいておらず、テーブルに置かれた水にも手を付けようとしない。
(元就は神様、なんだっけ)
暑さを感じないのだろうか。もしかすると、地上のものを食べることも出来ないかもしれない。
それについて尋ねると、「必要はないが食せぬこともない」と返された。
眉間の皺が消えない様子から、甘いものに興味がないと見える。世の中にはそんな人もいるだろうが、元就は単に食べないだけなのだ。菓子の一つでも食べてみれば、考えが変わるに違いない。
僅かな期待を抱きつつ、今回は無難にショートケーキを注文した。
ふわふわの生地を包み込む白いクリーム、みずみずしく輝く苺が食欲をそそる。
口の中に入れた瞬間広がる甘さ。名前がとろけるクリームを堪能していると、視線が突き刺さるのを感じた。
向かいに座る元就がこちらを凝視している。
彼の前にもショートケーキ。しかし全く手がつけられていない。フォークを持つこともせず、ひたすら名前の様子を見ている。
「…食べないの?」
そんなに見られては食べづらいのだが。
「…随分と、幸福そうな顔をする」
「え?」
「間抜け面よ」
唐突な罵倒にきょとんとする名前。
ようやくフォークを手に取った元就は、ぎこちない手つきでショートケーキを掬い取ると、それを口に運んだ。
瞬間、彼の目が見開かれる。
予想外の反応に、同じく目を丸くする名前。
「…美味しいでしょ?」
フォークをくわえたまま固まっている元就に、恐る恐る尋ねてみた。
「…フン」
答えらしい答えは貰えなかったが、フォークをどんどん運ぶ様子に、微笑みをこぼす名前だった。
「悪くない」
その言葉を貰ったのは、店を出る間際。それまで口を開かなかったので直ぐには何のことか気付かなかった名前は、やがてくつりと笑う。
「今度は和菓子屋さんでも行こうか」
「…好きにせよ」
元就は甘いものが好きなのかもしれない。
おかしいだろうか。自分を利用しているだけの者と、こんな話をするのは。
けれど名前には、彼女だけの考えがあった。
その通りに出来るまで、暫くはこうしていたい。
帰り道を歩く時、涼しい風が二人の間を抜けた。






---
ナリ様の「フン」はデレに違いない。
2012.9.9