あやかしあかし | ナノ
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いつも寝起きしている布団の上。名前は天井を見詰めていた。
熱は下がった。けれど、落ち着かない。というのも、幸村が傍にいないからだ。
最近、幸村はよく外へ繰り出している。
心配性で名前の周りをうろうろしていた幸村が、今は一人行動が多い。
ゆっくりと体を起こして、部屋を見渡す。
「……」
元々一人暮らしだったはずなのに、狭い部屋が少し広く感じた。


* * *


幸村が戻ってきたのは、日暮れ時だった。
いったい何処で何をしてきたのか、汗と泥に塗れた姿に、名前は目を丸くした。
「随分はしゃいできたんだね」
と言ったが、幸村の表情は決して楽しんだ後のものではなかった。真面目な表情が崩れないままタオルを受け取り、汗を拭う。
「すみませぬ。帰るのが遅くなってしまった」
くぐもった声が隙間から漏れる。
「ううん。幸村の好きなことを好きなだけすれば良いよ」
名前の言葉を聞いて、一瞬タオルを動かす手が止まる。が、再び何事もないように顔を拭く幸村。
妙な沈黙が訪れる。
元々、口数は多くない二人だ。お互い無言になることは度々ある。いつもならそこには穏やかな空間が生まれるのだが、今の二人の間には、気まずさが生じている。
(何かまずい事でも言ったかな…)
名前は、幸村の意見を尊重したいと考えている。というか、一部依存しているところがあるとはいえ、幸村と名前は互いに互いを束縛しなければならないような間柄ではない。
「あの、幸村。私は幸村にどうこうしてほしいとかは言わないから、だから…」
幸村の表情が強張った。思わず口を噤む名前。
幸村は脱力して座椅子に体重を預けると、力無い笑みを浮かべた。
「そなたは心優しき御仁にござる。…だが時折、その優しさが恐ろしくなる」
その時、名前は感じた。幸村との間にある、見えないけれどはっきりとした溝を。ほんの僅かな亀裂だが、それは確かに存在した。
徐に立ち上がった幸村は、風呂を貰うと一言告げて風呂場へ向かう。目を合わせずに。


* * *


それから二人は、何となく気まずくなってしまった。朝起きてから夜眠るまで、同じ空間にいると居心地が悪くなってしまうので、尚更幸村の外出回数が増えた。
名前は一人になるときは大概家に篭っている。座布団に座り何をするでもなく幸村の帰りを待った。
予感がしていた。
幸村は、もうすぐ何処かへ行ってしまうと。
「名前殿」
その日、幸村が畏まって口を開いた。互いに正座して向き合うと、名前は幸村と初めて会った日を思い出した。
「今の未熟な某では、そなたを守るなど到底出来そうにござらぬ」
「……」
「某、修行して参ろうと思いまする」
名前が口を開いた。が、少し考えて、結局何も言わずに閉ざした。ただ一言、「そう」とだけ零して。
幸村は、真っ直ぐに立ち上がった。名前もそれに習い腰を上げる。
玄関の扉を開けて、幸村は振り返った。
「では、どうか御達者で」
名前は今度こそ声を掛けようとした。
寂しくなるな。
そんな事を言ってどうする。
頑張ってね。
幸村はいつでも頑張っている。
早く帰って来てね。
それは言ってはいけない。
ならば、
「さよなら」
そう言って笑うしかない。






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狐さんマジ空気。
2012.5.21