あやかしあかし | ナノ
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名前が倒れたと知った佐助は、直ぐさま地上へ降り立った。
そして、名前の部屋の中。彼の目の前で、幸村が目に見えて落ち込んでいる。
名前は今は眠っているようだ。規則正しく上下する布団をちらりと見て直ぐ、佐助は幸村を見下ろす。
「で、名前ちゃんは相変わらず毛利の旦那を閉じ込めたまんまなの?」
「ああ…」
無気力な声に、佐助はやれやれと溜息をつく。
「旦那も随分名前ちゃんに振り回されてるね」
「…それは、某が未熟故だ」
あの日幸村は、名前を守ると誓った。だが、元就の弱体化してさえ圧倒的な力に、すっかり意気消沈してしまっていた。
(某では、名前殿を守れぬのか)
過ぎる考え。だが、頭を強く振って否定する。
このままではいけない。己の炎を消してはいけないのだ。
自らを叱咤して、幸村は立ち上がる。
「ぬぅおおおおおお!!!奮えよ幸村!己が未熟と思うならば、鍛練あるのみぃ!!」
高らかに雄叫びを挙げ、走り出す。扉を開け放ち、一直線に駆け出した。
残された佐助は、再び溜息をつく。
「空元気もいいとこだよ…たくっ」


* * *


氷がまた厚くなったようだ。踏んでも中々壊れない。が、完全に氷付いた訳でもない。嫌な音を立てる足場を気にしつつ、名前は前を向いた。
元就は、重力を感じさせないように佇んでいる。辛うじて爪先が氷に触れているが、浮いているのかと錯覚してしまう程に。
「幸村はね、君のことが嫌いみたい」
元就はそれを言われたところで何も思わない。名前が悲しそうにしている意味も理解出来ない。
「幸村は、きっと君の事を誤解してる」
その発言は、元就の癪に障った。
「誤解しているのは貴様の方ではないか。人間ごときが我の何を知っておると言うのだ」
「…知らない、ね」
当然だろう。元就は、進んで自分を表現したがらない。幸村のように表情豊かでもなく、そもそも名前と仲良しこよしをしようとは思っていないのだ。
「でも、少しだけ分かる」
名前の顔。元就を映す瞳が、悲しみに染まっている。
「君はずっと、」
言葉は、途切れた。
一瞬にして、元就の手の平が名前の頭を掴む。口も目も塞がれた彼女の体は、呆気なく氷にたたき付けられた。その衝撃で氷が割れ、名前の顔が水中に沈む。
「その目を止めよ!何故貴様がそのような目をする!」
水中にある名前に、聞き取れているのかも分からずというのに、元就は声を荒げた。
「貴様も、あの狐も…我を愚弄するのか。我は何一つ誤っておらぬというのに、何故貴様等はいつも…!」
元就の腕に、冷たいものが触れる。氷水に浸かった名前の手はすっかり冷えてしまっていた。力が僅かに緩んだお陰で、名前の顔が元就の手の平から抜け出す。
「…愚弄なんて、してない」
水面に顔を出した名前が言う。
「私は、君のことを知りたいの。君にあるもののことを」
名前の目から先程の色は消えていた。その代わり、消えない光が元就へ真っ直ぐ突き進んだ。
ぐっと眉を寄せ、顔を背ける元就。
「…ぬかせ、我には何もない。貴様が欲するものなど、ありもせぬ」
「……」
「それ以上戯れ事を申してみよ、即刻その魂を喰ろうてやる」
立ち上がり、一歩足を進めると、淡い光が生まれる。みるみる内に等身大へと膨らんだそれに向かって、再び歩を進める。やはり元就は、光の中に消えるのだ。
だが、元就の姿が掻き消える刹那、口を動かしたように見えた。
その時の横顔を、名前は見た。今まで見たこともない、むしろ彼なら誰にも見せないような表情で。戒めるように何事か囁いた。
けれどその声は、名前には届かない。






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進展しない。
2012.5.8