あやかしあかし | ナノ
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暗くなるまで町中を探したが結局犬は見付からず、久美子が落ち込んだ名前の肩を叩いてお開きにしてしまった。
それから数日後の昼、学校にて机に体を預けてうなだれる名前。
「わんこ…う〜」
「もー何時まで引きずってるつもり?いなかったモンは仕方ないでしょが。それよりアンタはその怪我を治すことに専念する!」
「うん…」
包帯の巻かれた左腕を掲げる。痛み止めの薬を服用しているため痛みはないが、腕を動かす動作がぎこちない。あれだけ弱っていたのに相当な力で咬まれたらしく、完治するにはまだ時間が掛かりそうだ。
「あ、やっぱり今日もいるよあのイケメン」
窓の外に視線をやった久美子が嬉しそうに呟いた。名前も顔を向ければ、確かに校門の側に赤い鉢巻きの青年がいる。
「あれからずっとだよね…何なんだろ」
「誰か探してるみたいだけどねーなんせうちに通ってる人は何千といる訳だし、中々見付からないんじゃないの?」
「探してる人は知り合いじゃないのかな…」
「顔だけ知ってるとか?ちょっと怖いなソレ」
会話しながら眺め続けていると、青年がこちらを向いた。また目が合ったような気がして慌てて反らす。久美子ももう彼を見ていないようで、名前はほっと息をついた。
「何安心してんの」
「え?」
顔を上げると、そこには眉を寄せた久美子の顔があった。
「まぁた話聞いてなかったな!アンタ今日は委員会だったでしょって!」
「え、あぁ!ご、ごめん…」
「遅くなるんならさっき帰っとくからね?また何かに襲われないように気をつけなさいよ」
「う、うん」
また、あの犬の姿がちらついた。


* * *


委員会が長引いた挙げ句、不運にも先生に手伝いを頼まれたせいで、名前が学校の玄関を出た頃には辺りはすっかり暗くなっていた。校門近くにぼんやりと光る街灯が立っているが、それまでが薄暗い。
(なんか“出そう”でやだなぁ)
名前は幽霊の類を信じている訳ではない。だが、この雰囲気を感じていると恐れずにはいられない。俯き気味に突っ切り、校門を駆け抜ける直前、
「お、お待ち下され!」
必死に呼び止める声がした。それと共に捕まれた腕に、名前は心臓が口から飛び出そうになった。おっかなびっくり振り向くと、そこにいたのは昼間話題にした青年だった。近くで見れば見るほど整った顔で、真っ直ぐな瞳がこちらを射抜く。
「えと…何でしょうか」
捕まれた腕が締まる痛みを感じる。それに気付いた青年は直ぐさま腕を離した。
「すみませぬっそ、その」
少し居心地悪そうに口ごもる様子は、遠目で見たときの態度からは想像がつかなかった。
「…某、真田源二郎幸村と申す!」
「は、はぁ」
古風な名前を名乗られ綺麗にお辞儀されても対応に困る。じっとこちらを見ていた青年は遠慮がちに口を開いた。
「その…良ければ貴殿の名を教えて下さらぬか」
「え…苗字名前、です」
見ず知らずの人に名前教えて大丈夫なのか。向こうが名乗ってきたのだから、こちらが名乗らないのも失礼かもしれないが。
「苗字殿…つかぬ事をお聞きいたすが、何処かでお会いしたことはございませぬか?」
「…いえ、貴方を見かけたのはこの校門でが初めてかと」
まさか真田さんが探していたのは私なんだろうか、と少し表情を曇らせる。何も特別ことなんてしていない筈だが、こんなかっこいい人と知り合う機会なんてあっただろうか。
青年はそうでござるか、と落胆した声を漏らし、一度躊躇するそぶりを見せた後、名前の左腕を指差した。
「その怪我は…」
「これですか?これはまあ…とあるわんこを驚かせちゃっただけで。…もしかして、貴方の飼い犬だったんですか?」
「…いや、そういう訳ではないが…似たようなものでござる」
苦い表情をしていた青年は、決意したように名前と目を合わせる。名前も自然背筋が伸びる。
「苗字殿!折り入って頼みが…ぁ…」
しかし、気合い充分に紡がれた言葉は途中から力が抜けるように萎んでしまった。そのまま青年がぐったりと膝をつく。
「え?えっ?だ、大丈夫ですか?」
訳の分からないまま恐る恐る肩を揺すると、小さな呻きが聞こえた。
「腹が…減って…」
本当に、対応に困った。



2012.1.13